先日、2人の女性に心を打たれた。一人は映画監督の山田火砂子さん(93)。最新作は昨年公開の『わたしのかあさん 天使の詩』で、知的障害のある両親の下に生まれた少女の葛藤を描いた。
舞台俳優だった山田さんが本格的にメガホンを取ったのは70歳を過ぎてから。43歳で再婚した映画監督の夫が立ち上げた映画制作会社でプロデューサーとして活動。66歳で死別すると、夫と入れ替わるように撮り始めた。福祉や反戦がテーマの作品が多く、原点は、支援や理解が十分でなかった1960年代に知的障害の長女を育てたこと。自身が経験した不条理への怒り、社会を変えたいという思いを作品に込める。
米子市内であった上映会で最新作を鑑賞し、諦めずに世に問うことを体現する山田さんの根性に圧倒された。低予算で作ったという作品に主演の寺島しのぶさん、常盤貴子さんをはじめ名だたる俳優が出演するのは、山田さんの気迫のたまものだろう。
もう一人は、上映会の前日に届いた手紙の差出人の知人女性(90)。1人暮らしを支える周囲への感謝と「毎朝、今日もちょっとでもいいことがありますようにと手を合わせています」と祈る日々がつづられていた。
山田さんの情熱も、女性のささやかな願いも心に訴えかけられたのは、それぞれの来し方の上にある「花」が見えたからだ。今なお美しく咲く卒寿を超えた先輩に人生を学ぶ立春である。(衣)