世界遺産・金峯山寺蔵王堂で行われた節分会行事。鬼を集めて帰依させるため「福は内、鬼も内」と唱える=2023年2月3日、奈良県吉野町
世界遺産・金峯山寺蔵王堂で行われた節分会行事。鬼を集めて帰依させるため「福は内、鬼も内」と唱える=2023年2月3日、奈良県吉野町

 2月2日は節分。「福は内、鬼は外」の豆まきの日だ。家の隅々に散らばる豆の掃除は大変だが、最近は小袋に入って回収が簡単な商品もあり、便利な時代になった。形は変われど寒い窓を開け放ち、まいておかないと落ち着かない。

 『鬼と異形の民俗学』(飯倉義之氏監修)によると、この風習は平安時代の宮中行事「追儺(ついな)」がルーツで、もとは大みそかの夜に行われていた。鬼という言葉は「穏」の訛(なま)りで、「姿が見えない怖い存在」のことらしい。

 呪術全盛の当時、最も恐れられたのは疫病で、最恐の鬼は冬の流行病。今年もコロナに隠れて身を潜めていたインフルエンザが暴れているが、見えない怖さは今も昔も変わらない。

 面をかぶった者が災いを追い払う儀式がやがて鬼の面に豆を投げる形となり、鬼のイメージも社会に背く悪役として定着した。武士の時代になるとヒーローの引き立て役にされ、京都大江山の酒呑童子や岡山の桃太郎伝説では、鬼がさんざんな目に遭わされる。

 現代の鬼はどうか。漫画『鬼滅の刃』は一味違う。人と鬼の悲しさを描きながら、主人公の竈門炭治郎が妹を守り成長していく姿には災いに立ち向かう勇気を感じる。鬼は本来、疫病や災害の接近を人に知らせる役目もあった。今でも全国に「福は内、鬼も内」のかけ声が残っているが、見えないものを身近に感じて、気を引き締めるための言葉なのかもしれない。(裕)