夏目漱石
夏目漱石

 高校の教科書「現代の国語」に、小説の掲載が増えることになった。文部科学省は指導要領から外れると当初、渋っていたようだが、学校現場の切実な声が教科書会社を動かした。

 「現代の国語」は実用文や評論を扱う必修科目。小説は古典と合わせて「言語文化」という科目で学ぶことになっている。しかし、現場には「小説と評論を分けると生徒の理解が深まらない」「古典に時間が取られて小説に手が回らない」などの声があった。

 小説は夏目漱石『夢十夜』や芥川龍之介『羅生門』などの短編。現代のスマホで物語を読む世代にどれだけ受けるかは別にして、漱石を外さなかったのはさすがと思う。この人のおかげで現代日本語の骨格ができたからだ。

 明治初期、江戸時代の気分から抜けきれていない日本では、お役所言葉はがちがちの漢文調、庶民はゆるゆるの浄瑠璃調でどちらも標準になれなかった。漱石は江戸弁をもとに、どちらにも通用する言葉を発明したとされる。

 現代日本語教育では文の構造を系統的に教える時間が不足している。国語教育の弱点ともいわれ、大学を出て社会人になっても文章による指示が理解できない、報告書が書けない原因と指摘されている。といっても一朝一夕には変えようがない。言葉を磨くには「本を読むのが一番の近道」と思えるので、小説に着目した国語教育の揺り戻しは歓迎すべきことかもしれない。(裕)