岐阜県美濃市の市立小学校で、1年生に配布されていた通知表
岐阜県美濃市の市立小学校で、1年生に配布されていた通知表

 自分を評価する際、ありのままを肯定的に認める「自己肯定感」という言葉が広く浸透したのは2000年ごろとされる。日本の若者は外国に比べて低いとされ、いつの間にか教育現場を中心に高めねばならないとの圧力が強まっている。

 こちらも自己肯定感を高める取り組みの一環という。岐阜県美濃市の小学校が1、2年生の通知表を廃止する。「◎○△」の3段階評価をやめ、代わりに文章で所見を書いた修了証を手渡す。総合教育会議で「児童が丸の数だけを数えて他人と比較し、自己肯定感が下がるのでは」といった指摘があったという。

 背景には、1年生が学校生活になじめない「小1プロブレム」がある。そこに評価が加われば、劣等感を覚えて不適合を起こしかねない。そんな子を一人でもなくしたい事情がある。一方で成長には「比較」が伴う。他人と比べたり、過去の自分と比較したりして初めて分かる気付きは少なくない。

 心理学者の榎本博明さんは「自己肯定感が低いのは悪いのか」と疑問を投げかける。褒めそやし、自己肯定感を促す教育は、今の自分を超えようともがく機会を失うと危ぶむ。

 日本人は「自分はまだ未熟だ」と謙遜の文化に身を置き、自己を高めてきた。良い意味での劣等感は幼い頃から体験させるべきだろう。通知表に子どもの魅力は閉じ込められないが、「◎○△」の記号がもたらすメリットは計り知れない。(玉)