八橋海岸に建立された「小泉八雲・セツ来訪記念碑」=鳥取県琴浦町八橋
八橋海岸に建立された「小泉八雲・セツ来訪記念碑」=鳥取県琴浦町八橋

 久々に足を運んだ鳥取県中部の道の駅で思わぬ案内文を見つけた。「ここ琴浦町は小泉八雲・妻セツが新婚旅行で訪れた場所なんです!」。ハート形に切った台紙には手書きの八雲とセツのイラストも。その下に並ぶ土産物のまんじゅうはいつもと同じパッケージなのに、何だか箔(はく)が付いたように見えたから不思議だ。

 今秋始まるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の主人公のモデルとして注目を集める八雲とセツ。松江で出会い一緒になった2人はその後、熊本、神戸、東京と転々とした。山陰でのゆかりの地といえば松江だが、2人はあちこちを訪ねていた。その一つが現在の琴浦町八橋だ。

 来訪したのが1891(明治24)年8月。よほど気に入ったのか、八雲は友人に宛てた手紙でこう絶賛していた。<八橋は静かできれいです。旅館もどこよりもよい宿です。不思議なことに海では誰も泳いではいません。それで私が水泳をすると町じゅうのひとが来て見物します>

 当時は海水浴の習慣がなかったようだ。「海で泳いどんなるで」と物珍しそうに眺める様子が目に浮かぶ。八橋海岸には手紙の文面を刻んだ記念碑がある。八雲の没後100周年を受け、合併前の東伯町などが2004年に建立した。20年余り経て観光資源の輝きを増している。

 2人の足跡は松江以外にも山陰各地に残る。八雲とセツからの貴重な贈り物として生かさない手はない。(健)