小欄を受け持ち13年が過ぎたが、年を追うごとに題材探しに悩みが増すことがある。元日やこどもの日など日本人にとって特別な日。当日はそれに合わせたテーマで書かねばという強迫観念に駆られる。
8月は特に多い。6日と9日の広島、長崎の原爆の日に続き、15日の終戦の日。俳句の世界では有名な<八月や六日九日十五日>である。
<八月は><八月の>という上句の違いこそあれ、この句は多くの人たちに詠まれてきたそうだ。千葉市の元法務省職員小林良作さんもその一人。終戦の前年生まれで直接の戦争体験はないが、戦火で事業を失い苦しむ両親の姿を思って11年前、<八月の六日九日十五日>と詠み、所属する俳句会に投句すると「(先に詠んだ)先行句がある」と指摘された。
ならば最初に詠んだのは誰なのか-。素朴な疑問を抱いた小林さんは図書館を訪ねて句集を調べ、複数の俳句団体に問い合わせ、作者や関係者に取材した。すると、海軍兵学校時代に広島で原子雲を見た経験を持ち、その後医師となり、被爆者の治療にも携わった長崎出身の男性の存在を知った。他にも多くの「詠み人」の人生模様と出会い、それを2冊の本にまとめている。
<八月や>の句は「詠み人不詳」というより「詠み人多数」。多くの人たちが戦争に抱く無念さや慰霊の思いがにじんでいる。共通するのは不戦への願いだ。きょうは戦後80年の終戦の日。(健)