芸の上達や無病息災を祈願する浴衣姿の舞妓や芸妓。この時期は浴衣の白地が映える=7月3日、京都市東山区の八坂神社
芸の上達や無病息災を祈願する浴衣姿の舞妓や芸妓。この時期は浴衣の白地が映える=7月3日、京都市東山区の八坂神社

 この時期、白い服を着ると後ろめたい気持ちになる。10代の頃から「お盆を過ぎたら、白い色の服はやめたほうがいい」と親に言われていたからだ。季節感を踏まえろという意図だが、そもそも衣装持ちではなく、厳しい残暑に白い服を着がちだ。

 作家の幸田文さん(1904~90年)は、季節の移り変わりを見るのが好きだったという。心に染みる季節の情緒に出合った時は本当にうれしいけれど、もっとうれしいのは誰かからふと聞く優れた季節感だ、とエッセー『季節の楽しみ』に記す。

 その一人が浴衣の色から秋を予告する人だった。当時の浴衣は白地に紺染め、紺地に白抜きの模様が多く「白のほうが際立ってしろじろとみえたときは、もう秋が来ているのだと、その人はいうのです」とある。そのからくりは広葉樹の葉の緑。寒暖計は夏の目盛りを指していても「もう濃くはない、やがて紅に黄にと色を変える下準備をはじめている証拠」だとその人は説いた。

 浴衣の白と広葉樹の緑で判断するのは「いかにもおんなの目が〓(つか)む季節」と感心した幸田さんは、確かに白は調和の納まらない事々しい感じがあると気付き、以降は晩夏の着物に白は用心したとか。

 季節の移ろいに気付くことは、自分を見失っていない証しでもあると思う。気象庁の予報は10月まで厳しい暑さが続くという。季節感が薄れた現代こそ、それぞれが触れた秋を語り合いたい。(衣)