先週の台風15号は、熱帯低気圧が日本列島の近海で台風に姿を変えて発生した。夏の台風のように太平洋をうろうろしてから来るのではなく、秋の台風には短い助走で急激に発達し、心の準備が整う前に被害を発生させるという特徴がある。
日本人は古くから秋に吹く強風を「野分」(のわけ・のわき)と呼び、松尾芭蕉が詠んだ句にも登場する。<秋風や石吹きおろす浅間山>(更科紀行)。芭蕉は納得がいくまで推敲(すいこう)を重ねる人だったので、この句にも4回の推敲を加えた。
そして最終的には<吹き飛ばす石は浅間の野分かな>となった。重い石すら吹き飛ばす凄(すさ)まじいまでの自然の猛威。ビジュアル的な怖さが増して面白い。芭蕉も秋の台風の「たちの悪さ」を強く意識したのかもしれない。
9月後半に襲来した台風には、甚大な人的被害をもたらした室戸台風(1934年)、伊勢湾台風(59年)などがある。その後も毎年のように水害、土砂崩れ、収穫期の農作物への被害、冠水による都市機能のまひなどが繰り返される。
芭蕉の時代には気象衛星はなく、突然吹き荒れる風に驚くしかなかったが、今はスーパーコンピューターのおかげで台風の動きは手に取るように分かる。怖いのは「最近は被害が出なかったから大丈夫だろう」という油断。「台風一過」の晴天にほっとするだけでなく、小さなことでもよいので、次の台風への備えも整えておきたい。(裕)













