島根県内のある学校のPTA会則。「生徒の保護者と教職員及び本会の趣旨に賛同するものをもって組織する」とあるが、入会が義務とは書いていない
島根県内のある学校のPTA会則。「生徒の保護者と教職員及び本会の趣旨に賛同するものをもって組織する」とあるが、入会が義務とは書いていない
島根県内のある学校のPTA会則。「生徒の保護者と教職員及び本会の趣旨に賛同するものをもって組織する」とあるが、入会が義務とは書いていない

 春に子どもの小学校入学を控えた島根県内の30代男性からPTAの在り方を問う声が、山陰中央新報「さんいん特報班」に寄せられた。PTA加入は任意との説明や意思確認がないまま会費の支払い手続きの案内や、役員選出があったという。県内の小中学校では一般的な手法というが、そもそも、PTAの結成や入会を義務付ける法的根拠はない。全国的には、入会の手順を透明化する動きが出ている。(糸賀淳也)

 2020年11月、小学校の入学説明会で男性は、渡された書類のうち、PTA会費の口座引き落とし手続きの用紙に目を留めた。説明会後にPTAのクラス委員選出も行われ、「全員入会」が前提の雰囲気だったという。

 男性は、なり手がない中で幼稚園のPTA役員を引き受けたことから在り方に関心を持つようになり、入会が任意ということも知った。「任意と知らない保護者が多いのではないか。誰もが活動に参加したがらないPTAは何のためにあるのか」と話す。

 島根県内の小中学校290校が加入する県PTA連合会によると、県内では入会が任意との説明や意思確認はしないのが一般的。入会しないとの声は出ず加入率は100%に近いとみられるという。

 複数の小中学校に聞いても答えは同様だった。ある小学校のPTA事務局担当者は「活動をきちんと説明して理解してもらい、入会を巡るトラブルはない」と言う。別の小学校の担当者は「うちは全員が好意的にPTA活動に取り組んでくれている」と強調した。

 県PTA連合会の原完次会長(46)=松江一中PTA会長=は任意加入の説明について「県内では触れられてこなかったが、きちんと説明するのが本来のやり方。検討が必要と感じている」とする。

 ただ、PTA役員が1年ほどの短い任期で変わる現状では腰を据えた議論が難しく「やり方を変えるのは容易ではない」とみる。

 全国的には、入会が任意と説明し、意思確認するよう改める動きが出ている。

 大津市教育委員会は2018年、小中学校向けにPTA運営の手引を作り周知を徹底した。千葉市PTA連絡協議会も17年、ホームページで公開した役員・会員向けの手引で、入会は任意で、意思確認すべきことなどを明記した。

 大津市教委によると、以前は全員加入が当たり前という感覚だったが、一部保護者から「任意なのに、おかしい」と声が上がったのが周知のきっかけ。その結果学校によっては加入者が半減し、「入らない人が出て、困る。何てことをしてくれたんだ」との批判も浴びたという。

 PTA問題に詳しい文化学園大の加藤薫教授(日本文化論)は「PTAは任意のボランティア活動であるべきだ。行事ごとに、協力者を募る方法もある」と説く。その上で「任意と言われても同調思考が出る。入らない人がいても差別を受けないこと大切だ」と指摘する。実際、岐阜県内の小学校では加入しなかった保護者の子どもが、朝の登校班に入れてもらえない事例があったという。

 冒頭の男性のように、PTAの存在や、活動自体に疑問を感じる人が少なくないとすれば、任意加入の説明や意思確認を始めた途端に、会員が減ることも予想される。

 島根県内のPTA活動はいじめやインターネットとの付き合い方など、子どもに関わる問題の研修や広報紙制作、児童生徒の生活指導などが一般的。会費は研修費や広報紙の印刷代、入学式・卒業式の花代やプールに入れる薬品代など多岐にわたり、本来は学校が出すべきと思われるケースも散見される。

 だからこそ、前例にとらわれず、保護者がボランティア活動として何をすべきか議論することが、多くの賛同を得てPTAを活性化させる道ではないか。入会の手順を巡る問題はそのきっかけになる。