1999年の誕生以来、世界80以上の国と地域で累計5.6億個以上を出荷し、世代や地域を越えて広がり続けている日本発祥の現代版ベーゴマ「ベイブレード」。その第4世代にあたる『BEYBLADE X(ベイブレードエックス)』シリーズ初の世界大会が、10月11・12日の2日間、東京タワーで開催された。日本に集結したのは、世界21地域で計15,000人以上が参加した予選を勝ち抜いた33名。玩具の枠を超え、世界的な競技へと進化を遂げたベイブレードは、なぜこれほどまでに人々を惹きつけるのか。イスタンブール、ロサンゼルス、日本の代表選手に、その理由を聞いた。
【動画】世界のトップ選手が熱戦!大会決勝トーナメント
■世界大会制したイスタンブール代表の挑戦
10月11・12日の2日にわたり、レギュラークラス(6歳以上12歳以下)とオープンクラス(6歳以上、大人も参加可能)の2つのカテゴリーで開催された「BEYBLADE X WORLD CHAMPIONSHIP 2025」。19地域の各代表が出場したレギュラークラスで優勝したのは、メキシコシティ大会選出のレオバルド選手。14地域の各代表が出場したオープンクラスでは、イスタンブール大会選出のファーレッデイン選手が優勝を飾った。
ファーレッデイン選手がベイブレードを始めたのは6歳の時、アニメ『Beyblade Metal Fusion(メタルファイト ベイブレード)』を観たのがきっかけ。祖母にベイブレードを買ってもらい、初めて遊んだ際、「単なるゲームではなく、自分の創造力を掻きたてるものであることに魅せられ、以降、“人生の一部”といえるほどの特別な存在になった」と目を輝かす。
「4人きょうだいで、自分たちで小さなベイブレード大会を開くこともありましたし、空き時間にはベイブレードのパーツを組み替えて新しい組み合わせを試すのも大きな楽しみでした。だから自分のことを“ベイブレードエンジニア”と呼んでいます」(ファーレッデイン選手)
イスタンブールには130~150人が所属するベイブレードのコミュニティがあり、6歳から15歳の今に至るまで親しんできたファーレッデイン選手は、ベイブレードの魅力のひとつとして「たくさんの新しい友達ができたこと」を挙げる。
「今回の世界大会でも感じましたが、ベイブレードは私たちの共通言語です。異なる文化を持つブレーダーたちと同じ舞台に立てるのは特別な経験。言葉で完全に意思疎通することは難しくても、エキサイティングなバトルが私たちをひとつにしてくれます。私にとってベイブレードは単なるゲームではなく、友情を築く手段にもなっています」(ファーレッデイン選手)
■性別や年齢を超えて熱戦繰り広げる選手たち
ファーレッデイン選手の言葉にもあるように、ベイブレードは単なる玩具を超え、“国境や文化を超えて友情を築ける共通言語”として進化している。その中でも特筆すべきは、「性別や年齢を超えて平等に戦える」ことだ。
オープンクラスの女性ブレーダー、ロサンゼルス代表のエレーナ・ベイ選手のブレーダー歴はわずか10ヵ月。小学生の頃、幾度か遊んだ経験はあったが成長とともに遠ざかっていた。昨年末、友人宅で遊んだことをきっかけに本格的にプレイを始めた。それから7ヵ月後、予選が開催されたロサンゼルスのAnime Expoで優勝し世界大会進出を決めた。「アメリカでのベイブレードのコミュニティの大きさを垣間見て、勝てるなんて思っていなかったし、ただ参加できるだけで嬉しかったので、代表になれたときは信じられない気持ちだった」と興奮を口にする。
そして、自身の経験を元に、「ベイブレードは始めるのも簡単で、誰でも勝てる可能性がある。何が起こるかわからないのが面白さ」とその魅力を語る。
さらに世代でいえば、オープンクラス1位のファーレッデイン選手と2位のカイル選手(香港大会選出)という10代の選手に続き、3位に輝いた東京大会選出の小学校教員・室伏一秀さん(ブレーダー名:おまんじゅうキング選手)の体験もその魅力を存分に伝えている。
2年前に子どもの誕生日プレゼントとして、最新の『BEYBLADE X』シリーズのベイブレードを購入した室伏さんは、一緒に遊ぶ中で、「勝ち方もさまざまで、やり込んでいくにつれ、とても面白いゲーム性に取り憑かれてしまった」と振り返る。
「ベイブレードは子ども向けのおもちゃだと思っていましたが、遊んでみて、大人にとっても刺激的で面白いスポーツだと感じました。実際、大会では大人の方が熱量が高いこともあります(笑)。年齢も性別も地域も関係なく、同じ土俵で真剣に戦えるのは大きな魅力です」(室伏一秀さん)
室伏さんは、「ベイブレードを通じて多くの友人ができ、人生が豊かになった」と笑みをこぼす。本大会でも、「空き時間にフリーバトルをしたり、言葉が通じなくてもベイブレードで心が繋がったという経験ができて、国境を越えて楽しめる遊びだと改めて感じました」と語る。さらに、「私の住んでいる地域では、障がいのある方の就労を支援する施設でもベイブレードを扱っている場所があり、そこでは様々な方がベイを楽しんでいます。そういった施設も訪問させていただきながら、今後はより大人のポップな趣味としても広がるよう、僕自身も盛り上げていきたい」と意欲を見せた。
■ベイブレードが国境や世代をつなぐ共通言語に
大会を終え、『BEYBLADE X』シリーズ初の世界大会を成功させたタカラトミー グローバルベイブレード事業部 部長の高岡悠人さんは、「とても感慨深い」と笑顔を見せる。
「選手たちが互いに鼓舞し合い、真剣に取り組み、勝者を称え敗者を励ます姿を目の当たりにしました。言語や世代、性別を超えた友情が生まれる瞬間はもちろん、観客の歓声と熱気も印象的でした。我々は「ベイブレードをスポーツに」と宣言しているのですが、プレイする人が楽しいだけでなく、白熱したバトルは見ている人たちをも楽しませる。実際にその光景を目にして、スポーツとしての可能性を改めて感じました」(高岡さん)
今や世界で累計5.6億個以上の出荷数を誇るベイブレードだが、タカラトミーが世界への拡がりを感じたのは、第1世代を発売した1999年から約2年後のことだったという。
「発売当初は小学生の男の子を主なターゲットとしており、2001年のアニメ化をきっかけに爆発的なヒットを記録しました。その実績が海外の玩具メーカーの方々の耳に入り、海外展開をスタートしたのが始まりでした」
日本ではその後、第1世代に子どもだった大学生や大人が遊ぶようになり、パートナーや家族にも広がり、今は大会出場者も女性が1~2割となっているという。
「今年の8月に行われた東京大会予選では、シュートパワーが強い男性選手に女性がシュートテクニックやカスタマイズの相性で勝つというケースも多く見受けられ、印象的でした」(高岡さん)
デジタルゲームが主流の今、対面で戦える楽しさもベイブレードの大きな魅力だ。
「ベイブレードの対戦は、実際に物に触れ、引き抜く時の重さを感じ、回る音を耳で感じ、目で追い、その結果勝ってうれしい、負けて悔しいという感情が生まれたり、様々なリアルな刺激が受けられます。デジタルにはデジタルならではの面白さや魅力がありますが、人間に肉体がある以上、五感を使って、直接感じるという遊びは今後も求められるのではないかと思います」(高岡さん)
今後は世界大会のみならず、小学校のクラブ活動や社会人リーグ、老人ホームでの交流会等、“年齢性別国境を越えて楽しめるスポーツ”として広めたいと高岡さん。
「野球に例えれば、草野球をやっている人もいれば、リトルリーグもあれば、甲子園もある。メジャーリーグもあれば、プロ野球もあれば、社会人野球もあるというように、幅広い展開ができたらいいですね。そのためにも、ベイブレードの魅力を今後もっと世界に伝えていけたらと思います」と意気込む。
本大会2日間の模様はYouTubeにてライブ配信され、世界各国で視聴された(現在はアーカイブ視聴可能)。国境や年齢、性別を超え、観客をも魅了するスポーツへと進化したベイブレードの今後の展開がますます楽しみになってきた。
(取材・文/河上いつ子)
オリコン関連記事