国内最大級の野外音楽イベント「フジロックフェスティバル」が8月20~22日、新潟県湯沢町で開かれた。新型コロナの感染拡大下での開催に批判も飛び交う中、会場にはロックの爆音が響き、喜びや不安、さまざまな思いが交錯した。
入場ゲート付近に抗原検査のテントが立ち、「今年はアルコールの持ち込みはできません」とアナウンスが繰り返される。東京から友人と2人で来た女性会社員(50)は「春にあった別のフェスは一部の人の行為で批判された。全員が高い意識で感染防止に努めないと」と硬い表情だ。
MISIA、ザ・クロマニヨンズなど国内勢限定で、定員削減や入場券の払い戻し対応もあり、例年延べ10万人を超える来場者は約3万5千人にとどまった。それでも、ステージ前では若者らが決められた立ち位置や発声禁止のルールを守りつつも激しく体を動かし、遠目で見ても少し心配になった。
公演終了直後の移動時など、局所的にソーシャルディスタンスを保つのが難しい場面にも遭遇。常に人との距離や手指の消毒に神経を使いながらの滞在となった。
アーティスト側からは並々ならぬ思いが感じられた。King Gnuの井口理は時折声を詰まらせながらも「本当に格好良い音楽をやって帰りますんで」と話し、斬新な曲調で聴かせた。曲間で「みんな健やかに! 悩んで悩んで集まっていると思う」と呼び掛けたのは志磨遼平のソロプロジェクト「ドレスコーズ」。手嶌葵の澄んだ歌声には多くの人が聞き入った。
2日目のメインステージに、出演キャンセルとなった小山田圭吾の「コーネリアス」の代わりに登壇したのはKen Yokoyama。代役の自虐を交えて「ステージに上がったからにはロックンロール」と誓い、ギターをかき鳴らした。
逆境のフェスを象徴するような立場ながら、迷いを打ち消すような熱演はロックの真骨頂を感じさせた。最後に「新潟県の方に迷惑が掛からない結果になることを祈っています」と付け加えることも忘れなかった。
コロナ禍を理由に出場辞退者も相次いだ。シンガー・ソングライター折坂悠太は決断した理由や心情をツイッターに「感染者が一人も出なかったとしても、直接的、間接的にもたらす影響が、遠い場所で、死角にいる一人の人生を変えてしまいます」などと投稿。開催や出演を巡る人々の「分断」を懸念した。
閉幕後、感染状況などの「情報収集に努め、結果を報告する」と主催者側。フェスの未来のためにも検証と情報公開の徹底が求められそうだ。