新型コロナウイルスの流行で、オンラインを活用したリモートワークが普及し、働き方や生き方が変わり始めている。「旅先」で仕事をするワーケーションもその一つ。心にゆとりが生まれ、実践者から「リフレッシュできる」「選択の幅や視野が広がった」などと喜ぶ声も上がる。
京都市のITベンチャー「HACARUS(ハカルス)」は、昨春からリモートワークに移行し、社員は原則、在宅勤務に。社員の気分転換を図るため、リゾート地・和歌山県白浜町のシェアオフィスに事務所を構え、今年2月から希望者は現地で働けるようにした。
和歌山県は2017年からワーケーションを推進。同社は県の奨励金で、事務所の家賃や通信費、交通費の半額相当を賄う。これと別に事務所近くに一軒家を借り、社員は無料で宿泊できる。
初めて訪れた奥田華代さん(31)はデータ分析の研究者。「在宅勤務は生活が単調。仕事と私生活のめりはりがないので、気分転換したかった」。事務所の海が見える窓際の席で、真剣にパソコンへ向かう。
昼食に新鮮な魚を食べたり、勤務後は海辺や観光名所を散策したり。「集中して仕事ができ、終わってから息抜きもできる。地域の人と関わり、何か貢献できればうれしい」と笑顔で語る。
シェアオフィスには複数の企業が入っており、共有スペースで意見交換をすることも。定期的に交流会も開かれている。
リモートワーク向けホテルの予約サイト「Otell(オーテル)」を運営するガイアックス(東京)は今年4~5月、ワーケーションなどに関するアンケートをネットで実施。仕事と休暇の割合の理想を尋ねたところ、回答者359人のうち「仕事が8割以上」は10・5%、「同6~7割」37・3%、「同半々程度」27・6%などだった。
大阪市の民間気象会社に在籍しながら、香川県東かがわ市で勤務する人も。其田有輝也さん(29)はコロナ後、リモートワーク中心の勤務を会社が推進したのを受け、築100年超の古民家を買ってリフォームをしながら働いている。副業のカメラマンの仕事もある。
「本業の気象予報士の仕事をしながら、古民家で民泊をしたい」と其田さん。「この土地に身を置いて、暮らしが豊かになった。多くのチャンスを生かして人生が切り開けた」と満足げだ。
日本ワーケーション協会(京都市)の入江真太郎代表理事は「コロナがきっかけで働き方や生き方を見直す人は多い。ワーケーションを通じ、地域との関係人口が増えることで、独自のビジネスが生まれることを期待したい」と話している。
■地域課題対策や働き方改革に
注目を集めるワーケーション。一部の自治体や企業は、地域課題の解決策や働き方改革につなげる手段として期待する。
ワーケーション自治体協議会(事務局・和歌山県)に参加する自治体は増えており、8月末時点で23道県174市町村。
自治体が推進する背景には、少子高齢化や過疎化などの課題がある。長野県立科町や新潟県妙高市は、首都圏に近いリゾート地の特性を生かし、研修の実施などを企業に働き掛ける。長崎県五島市は、個人のワーケーションを移住につなげるイベントも行っている。
先進的に取り組む企業も。家庭用品大手のユニリーバ・ジャパン(東京)は、働く場所や時間を社員が選べる働き方を2016年に導入。各自治体との連携や市民との交流を通じ、地域の問題の解決を図るワーケーション制度も19年に始めた。
航空大手のJAL(東京)は17年、休暇取得を促すワーケーション制度を導入。休暇取得予定期間にやむを得ず業務が入った際は、旅先での業務を認める。19年には、出張時に現地で休暇を取得できる制度を設けた。今後は、ワーケーション先で社会貢献活動を促す取り組みも行うという。