2021年8月の台風9号によって国道9号に倒れた木=出雲市中野美保北1丁目
2021年8月の台風9号によって国道9号に倒れた木=出雲市中野美保北1丁目

 山陰両県は秋に入り、台風が心配な季節になってきた。<上>では台風発生の原理や過去の主な台風被害、山陰両県の気候の特徴についてあらためて考えてみた。では、「台風に備える」とは具体的に何をすればいいのか、避難する際はどのように行動すればいいのか。正確に答えられる人は少ないのではないか。

 防災の専門家で、地域の防災計画をまとめる島根県防災部防災危機管理課、防災第二グループの松村博之リーダーと同グループの古田恵一主任に、具体的な台風対策について聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 「災害から身を守る対策としては『情報を早めにつかみ、早めに避難する』。これに尽きる」。松村リーダーは開口一番、強調した。

 県は国の災害対策基本法に基づき、災害時の重点事項をまとめた地域防災計画を策定している。計画では基本理念として、県民への防災教育や防災情報の発信を掲げ、人的、物的被害を最小限にとどめるよう呼び掛ける。

 松村リーダーが強調する避難情報については基本法が5月に改正された。避難を呼び掛ける「避難勧告」と、より緊急性が高い「避難指示」とを避難指示に一本化し、警戒レベルを5段階とすることで避難のタイミングをより明快にした。

災害対策基本法の改正に合わせて島根県が作ったチラシ。全員が避難する警戒レベルの「避難指示」は、従来の「避難勧告」のタイミングで発令される

 だが、改正からまだ日が浅く、完全には浸透していない。今の防災計画での避難の仕方をあらためて確認しよう。

 

1.ハザードマップを確認し、避難場所を決める

 ハザードマップとは地域内で災害時に危険度が高い箇所が記されている地図のこと。危険箇所は風水害と土砂災害に分かれ、それぞれ土砂災害の危険がある区域は赤色で、浸水の可能性がある区域は青や黄色で塗られている。自治体が指定する避難所も記されており、各市町村の役場やホームページですぐに確認したり、入手したりできる。

 古田主任「マップで自宅周辺が安全だと分かっていれば、移動しないのも一つの手。避難所と言うと学校や公民館など公共施設を思い浮かべがちだが、安全ならば知人や親戚の家でも良い。必ずしも自治体指定の避難所に行く必要はない」

 マップは実際に大きな災害に遭ったことがなければ、あまり目にする機会が無いだろう。まずはマップで自宅周辺のどこが危険地帯かを把握し、自分は避難の必要があるのか、避難するならどこに避難するのかを決めておこう。

松江市のホームページで閲覧できる城東地区のハザードマップ。赤色の四角で囲まれているのが、大雨の際に特に危険な土砂災害特別警戒区域。 青、黄色の区域は浸水した際の水深予測で、黄色が最も浅く、青色が濃くなるほど深い

 

2.避難所まで実際に歩いてみる

 意外と見落としがちなのが「災害時、実際にその避難所に行けるか」という視点だ。

 急ぎでの避難となれば単純に一番距離が近い避難所を選びそうだが、よく考えてみてほしい。避難するのがもし夜間だったら、雨が降っていたら、大荷物を持っていたら、子どもと一緒だったらー。道によっては急な坂道や街灯が少ない道があり、「短距離=最適な避難所」とは限らない。

 実際、山陰両県では住民が避難途中に転倒したり、車にひかれたりした例がある。道のりを自身で体験することで、避難の際の安全性をより高めることができる。

台風に備える際の注意点について、資料を使って説明する松村博之リーダー(右)と古田惠一主任

 

3.避難の準備に入るのは避難対象レベルの「一つ手前」

 実際に台風が来たとして、どのタイミングで避難すればよいのだろうか。市町村が発令する避難情報の警戒レベルが指標になる。

 警戒レベルは「1.早期注意情報(気象庁)」「2.大雨・洪水・高潮注意報(同)」「3.高齢者等避難」「4.避難指示」「5.緊急安全確保」がある。一般的には、警戒レベル4の『避難指示』が出るまでに、高齢者や足が不自由な人はレベル3の『高齢者等避難』が出るまでに避難するのが望ましい。となると、避難の準備に入るのは避難するレベルのさらに一つ手前になる。

 古田主任「食料や飲料品といった持ち出す荷物の確認をし、レベル3(高齢者はレベル2)で避難の準備に入るよう早めの行動を心掛けてほしい。台風の場合は数日前から規模が分かるので、さらに早い段階での避難でも良い」。避難するのに「早過ぎる」ということはない。危険が迫りそうだと分かった段階で避難しておけば、より安全だ。

5段階の警戒レベルに応じた避難行動をまとめた県のパンフレット。避難のタイミングが従来よりも分かりやすくなった


・その他の注意点

 台風の際、倒木が電線に触れることで停電が起きる可能性がある。テレビが使えなくなっても避難情報を入手できるよう、携帯ラジオを最低1台持っておくと安心できる。市町村の避難情報をメールで配信する、県の「しまね防災メール」への登録も有効だ。

 家族の連絡先は紙に書いておこう。携帯電話の番号は多くの人が携帯電話に保存しているが、仕事先から急に避難となった場合、家族に会えないまま何日も充電できない状態が続くかもしれない。連絡先を紙媒体で保管しておけば、公衆電話で連絡が取れる。

 避難の際に持ち出すのはマスクや食料品に加え、常用薬や眼鏡も忘れてはいけない。食料は普段から少しずつでも非常食を食べるようにしておくと、補充の際に1、2食分多く買い、無くなりそうになったらまた多く買う「ローリングストック」の方法で手軽に備蓄できる。雨が降りやすい山間部に住む人は、危険区域に自宅だけでなくスーパーまでの道が含まれていないかを確認する必要がある。もし含まれていた場合は災害発生時にスーパーまでの道が通れなくなることも想定しておく必要がある。備蓄の量を多くし、大規模災害になっても長く耐えられるようにしよう。

 

 古田主任は「家庭によって避難のタイミングや場所、持ち物は変わる。何が必要か、どこに避難するかを家族でいま一度話し合い、早めに避難できるよう普段から心掛けてほしい」とあらためて家族で災害に備える心構えを呼び掛けた。

 取材を通して、台風が来る前にできることはたくさんあることが分かった。安全区域の把握や避難所の選択は、台風や大雨が来た時にいきなりしようと思っても、できっこない。古田主任が呼び掛けるように、家庭内で防災について話し合ってみてはいかがだろうか。万が一の事態を想定し、一つでも多くの対策を事前に取っておくことが命を守ることにつながる。