社長が交代しても、企業体質や社風が変わるとは限らない。大手企業は特にそうだ。有力株主の意向も働くだろうし、社長経験者が会長や相談役として残っていれば、その影響力も「忖度(そんたく)」せざるを得ないからだ▼次期首相となる自民党の新総裁に決まった岸田文雄氏は、そんな状況の中での船出となる。見た目も印象も変われば、当面は国民の期待値は高くなるだろう。ただ、関心が集中する新型コロナウイルス対策では早速、これまでとは違う成果を求められる。独自色をどこまで発揮できるか▼今回の総裁選では、有力候補とみられた人物がいずれも出馬表明の後、まるで「踏み絵」を踏むかのような発言をした点が印象的だった。内容は「皇位継承」や「原発」「森友学園」の問題などへの対応だ▼国民向けには受けがいい、進歩的とみられる考え方や発言をやや軌道修正したり、トーンダウンさせたり。総裁選の議員投票で支持を広げるため、有力者らの機嫌を損ねないように気を使ったのだろう▼それが、首相の座に就くための「大人の判断」なのかもしれないが、国民の目には果たしてどう映ったか。11月とされる総選挙では、9年近く続いた「安倍・菅政治」への評価も争点の一つになる。その路線を踏襲するのか、それとも距離を置くのか。清濁併せのむ「永田町の常識」と、国民の期待の「板挟み」が岸田次期首相を待ち受ける。(己)