数多(あまた)の言葉を収録した辞書は時代を映す鏡である。8年ぶりに全面改訂され、12月に発売予定の「三省堂国語辞典第八版」では3500もの新語を増補しているという▼例を挙げると、【悪目立ち】悪い意味で目立つさま、【腹落ち】言われた内容に心から納得している状態、【置きに行く】自分の本当にしたいことやチャレンジすることを恐れて無難な手段を取ること、【ラスボス】ゲームの世界などで物語の最後に登場する最強の敵、【はずい】「恥ずかしい」を略した若者言葉|など。これらは現在の政界でも十分に通用する▼次期首相を決める自民党総裁選は、1回目の投票で1票差でトップに立った岸田文雄前政調会長が、決選投票で河野太郎行政改革担当相を破った。百戦錬磨のベテランはともかく、地盤が弱い若手議員にとって投票先は悩ましかったのではないか▼自らが衆院選で勝つには人気の高い河野氏を推したいが、派閥の意向に反して悪目立ちすると後が大変なだけに、腹落ちしないまま置きに行く|そんな心境が思い浮かぶ。ラスボス的な存在の安倍晋三前首相の顔がちらついたかもしれない▼改訂版には【一周回って】という新語もある。思考や時間、経験などが一回りした後、また元に戻ってくる様子のこと。変革を期待されつつも実現できず、一周回って不人気で退陣に追い込まれるような、はずい政権はもうご免である。(健)