二つの「ま」の字がこの人の持ち味なのだろう。一つは「まくら」、もう一つは「間合い」。落語の薬味となる二つの道具を組み合わせて滋味のある笑いを誘った、落語家で人間国宝の柳家小三治さんが今月7日、81歳で亡くなった。正統派の古典落語を演じながら、長広舌のまくらを取り入れ、絶妙な間が話に含蓄を持たせる。異能の噺家(はなしか)の風貌もみせた▼本題に入る前に、世間話などで客のご機嫌をうかがうまくら。多彩な趣味と本音を絡ませる小三治さんの話題は豊富で、あっちへ飛び、こっちに転じて次々に繰り出すうち、前振り時間が本題より長くなったこともしばしば▼コラムニストの堀井憲一郎さんが調べたところ、最長の『死神』という演目では、まくら1時間7分に対し本題48分の時間割。お後を気にしなくていい独演会なら「その時々の気分で長々と世間話をしている」と堀井さん▼それでいて一つの芸になるのは、客はネタを聞きに来たのではなく「小三治のしゃべり」を味わいたくてやって来たからだろう。何をやっても小三治は小三治の存在感▼最近の高座を動画で見てひやりとした。話がふっと途切れ、しばし沈黙。いつもの間の取り方にしては長すぎる。年齢が年齢だけに話を忘れたのでは、と固唾(かたず)をのんでいると我に返ったように再開。「この年になりゃ、こんなこともあるよ」と天国から小三治節が聞こえてくる。(前)