島根移住に関するチラシが並ぶ東京都内の相談コーナー=東京都千代田区、日比谷しまね館
島根移住に関するチラシが並ぶ東京都内の相談コーナー=東京都千代田区、日比谷しまね館

 東京都在住の40代夫婦は今春、新型コロナウイルス禍で地方移住を決断した。東京で生まれ育ち、過密状態に問題点を感じていた妻が候補に挙げたのは、人口密集と対極にあり自然豊かな島根。移住先は県内でも人口が多い出雲部ではなく、石見部を選んだ。

 夫は、経営していた決済アプリを開発するIT企業を譲渡し、5月に一足先に益田市美都町に移り住んだ。新規就農の支援制度を使ってイチゴ栽培を学ぶ。2023年春に中学校を卒業した娘とともにやって来る妻は「コロナがこれまでの常識を覆したことで、結果的に地方移住へのハードルが低くなった」と感じている。

 

コロナ禍が転機

 東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)の人口は現在3693万人に上り、日本全体の3割を占める。だが、コロナの感染拡大に伴い、東京の人口は20年7月、転出が転入を上回る「転出超過」に反転。以後は、月ごとに拮抗(きっこう)する。

 この流れもあり、20年度の島根県内へのU・Iターン者数は、前年度比24人増の3642人で4年ぶりに増加に転じた。東京圏からのIターン者数は73人増の284人と、16年度以来、最高を記録した。ふるさと島根定住財団UIターン推進課の島田朋子課長は「元々移住に興味があった人がコロナ禍を受けて、動き始めている」と期待する。

 

所得格差に戸惑い

 ただ、都会地から地方に移り住む際の壁は依然として高い。

 浜田市出身で、現在は栃木県内の設計関係の会社で役員を務める男性(45)はこれまで、将来的なUターンを漠然と考えてきたが、コロナ禍を機に移住に向け情報収集を始めた。

 ぶち当たった課題は所得の格差。「給料が下がるのは想定していたが、現在の3分の1程度になりそう。家族も一緒なので最低限の収入は必要だ」と条件がかみ合わず、最終的な決断には至っていない。

 実際、内閣府が実施したコロナ禍での地方移住に関するアンケート(21年4月~5月)では移住に当たっての懸念事項で「仕事や収入」が49%と最多だった。

 コロナ禍は都市部の過密リスクを浮き彫りにし、関心が地方に向き始める好機をつくった。その地方には、これまで移住・定住施策を進めてきた土台がある。地方在住者に対し税制で優遇するなど抜本的なインセンティブ(動機づけ)を行い、地方に向きつつある人の流れを一過性で終わらせない国の仕掛け作りが求められる。 (東京支社・白築昂)