長引くコロナ禍で返済の余裕がなく、返済延期を検討する特例貸付の利用者=島根県内
長引くコロナ禍で返済の余裕がなく、返済延期を検討する特例貸付の利用者=島根県内

 新型コロナウイルス禍は所得格差や貧困を浮き彫りにした。生計維持に苦しむ人のため国が、当座をしのぐ資金貸付制度の要件を特例的に緩和したところ、山陰両県では非正規労働者やひとり親世帯といった生活基盤が弱い人が殺到。生活保護の申請も増加の兆しが見える。衆院選で経済成長戦略が争点となる中、格差や貧困の是正が急務だ。 (取材班)

 島根県東部で美容・着付け業を営む50代女性は特例貸付制度を利用した。

 昨年4月以降、結婚式場からの仕事の依頼が激減し収入が以前の1割に満たない月もあった。ひとり親として子ども2人を育て、月々の生活費は約15万円。生活が立ちゆかず、特例貸付に何度も手が伸びた。

 「仕事の依頼が回復するかどうか」と生活再建が見通せないまま借入総額は80万円に膨らみ、精神的に重くのしかかった。9月には返済時期の延長を申請した。

 ▼支援に手回らず

 貸付制度は昨年3月に要件が緩和され、収入が「一定の基準以下」という要件がなくなった。

 島根、鳥取両県社会福祉協議会によると、9月末まで1年半の貸し付けは島根7380件(総額21億1700万円)、鳥取9874件(同39億500万円)。2019年度の島根32件(同350万円)鳥取54件(同840万円)とは比較にならない。

 制度は当面の生計を立てる資金を貸しつつ、市町村社協が個々の状況を把握して就職などの生活再建を支援するのが本来の姿。ところが、社協が膨大な件数の貸し付け業務に追われて支援に手が回らず、繰り返し借りる人へ、計画的な返済などのアドバイスができない状況という。

 ▼面接の機材ない

 生活保護もコロナ禍を反映する。島根県によると、生活保護の申請件数は12年度以降、減少傾向にあったのが、20年度は前年比3・0%増の688件に転じた。鳥取県では増えていないが、県の担当者は、リーマン・ショックの影響が時間差で及んだ前例を踏まえ、今後の増加を見越す。

 米子市に住む独身男性(54)は5年前に体調を崩して製造会社を退職後、アルバイトなどを転々としていた。定職を探すものの、コロナ禍で就職活動すら難しくなり「リモート面接と言われても機材を持っていない」と挫折。特例貸付の利用は返すめどが立たないとみて諦め、昨年秋から、やむなく生活保護の身だ。

 島根県地域福祉課生活保護グループの三次隆浩グループリーダーは「今は特例貸付などの利用で耐え忍んでいる状態」と推察。今後、耐えきれなくなった人が生活保護を申請するケースが増えるとみる。

 

◆特例貸付 地域や世帯による収入の要件がなくなった。「緊急小口資金」「総合支援資金」の2種類あり、ともに無利子。主に休業者向けの緊急小口資金は貸し付け上限20万円で、返済期間は最長2年。主に失業者向けの総合支援資金は上限が2人以上の世帯は月20万円、単身世帯は月15万円で、原則3カ月まで。最長10年かけて返す。2022年度に返済期間が始まる。収入が改善せず、住民税非課税だった場合に返済免除の可能性がある。