人数制限をかけるライブハウス。地域の音楽文化を守ろうと、厳しいながらも運営を続けている=米子市道笑町1丁目、米子ラフズ
人数制限をかけるライブハウス。地域の音楽文化を守ろうと、厳しいながらも運営を続けている=米子市道笑町1丁目、米子ラフズ

 新型コロナウイルスの感染リスクが高い場所として厳しい目が注がれてきたライブハウスは、第5波に伴う緊急事態宣言が解かれてもなお、人数制限をかけながらの営業が続く。感染防止へ協力してもらう施設への国の補助基準が曖昧なため、自治体の支援が地域によって差があり、山陰両県の現場に不満が渦巻く。イベントの解禁、制限と補償をどう考えるかは国の課題であり、衆院選の重要な争点だ。(邑南通信部・糸賀淳也)

 9月に米子ラフズ(米子市道笑町1丁目)であった松江市出身のシンガー・ソングライター門脇大樹さん(38)のライブ。定員320人を20%弱の60人に制限した中、訪れたのはさらに3分の1の20人にとどまった。

 ライブハウスに行くというと、職場の同僚や家族に自重するよう言われ、行けたとしても声を出さないなどの制約で、十分に楽しめず、客足は戻っていない。

▼限られた財源

 国は、イベントの人数制限を5千人または収容定員の50%以内とするが、ライブハウスは立ち見が一般的で、密集した状態で入る人数を100%として計算する。50%だと、十分な間隔が取れない。

 米子ラフズは、ライブハウスや小劇場向けに独自の基準を設ける鳥取県と、広さや換気対策を協議して入れる数を決めた。

 頼みの綱はイベント開催に伴う米子市の補助金。国の地方創生臨時交付金を財源に、一つのイベントにつき50万円を上限に入場料の減収を補える。藤原冬子店長(38)は「鳥取は補助が手厚いので助かる」と話す。

 これに対し、米子ラフズの姉妹店である松江カノーバ(松江市嫁島町)は、米子の基準をもとに、自主的に定員230人を30人に制限する。

 ところが、松江市にはライブを含む音楽、芸術分野のイベント制限に対する補助金は今のところない。当然ながら、鳥取側に比べて運営が厳しくなる。

 なぜこういうことが起こるのか。地方自治体に配分される地方創生臨時交付金は、人口が多い地域に偏在する。菅政権のコロナ対策の司令塔だった西村稔康経済再生相(当時)は「(地方の)腕の見せ所」と言うが、限られた財源を気にしながらのやり繰りで、地域差が出るのは否めない。

 国は、芸術団体への支援事業として2020年度補正予算で計930億円を計上したが、地方のライブハウスが活用することは想定していない仕組みだ。

▼自助努力限界

 両店を運営しているアズティックの東井(あずまい)規至(のりゆき)代表(58)は、1カ月の売り上げの平均がコロナ前の3分の1に落ち込んだとしながら「大げさかもしれないが、ライブハウスがなければOfficial髭男dism(オフィシャルヒゲダンディズム)も生まれなかった。地域の音楽文化の灯(ひ)を消さないためにも何とか運営を続ける」と話す。

 シンガー・ソングライターの門脇さんは、コロナ前に比べてライブの本数が半減した。「ライブハウスがあるから成長できる」と存在意義を強調する。

 芸能などのエンタメ業界は、医療や介護分野に比べて「不要不急」なものと見られがちだが、コロナ禍で生じた減収、減益は、国が一定の基準を決めて補償をすべきではないか。当事者の自助努力だけでは、地方の文化、芸能を守れない域に入っている。