新型コロナウイルス禍の米価下落が山陰両県の農家を直撃している。コメ依存度が高い中山間地域の基盤を揺るがす事態だ。各党の選挙公約には、過剰在庫の緩和や所得下支えなどの政策が並ぶ。農家が選挙戦に向ける目はいつになく厳しい。 (政経部・奥原祥平)
農林水産省が14日発表した、9月のコメ出荷業者と卸売業者の相対取引価格は玄米60キロ当たりの全銘柄平均が1万3255円となり、前年同月比で12%下落した。値下がりは2年連続で、そもそものコメ離れに加え、コロナ禍での外食需要減少が響いた。
島根県産米をみると、コシヒカリ1万3414円、きぬむすめ1万2898円で、ともに10%安。つや姫は11%安の1万3504円となった。コシヒカリの「西の横綱」と称される奥出雲町の地域銘柄「仁多米」もコメ余りと無縁でいられない。
▽取引数量減
町内最大規模の66ヘクタールでコシヒカリを作付けし、仁多米ブランドで直接販売する農業法人コスモ21(奥出雲町下横田)は、10年来の付き合いがある関西の大手卸業者から打診された取引数量が昨年の4割減だった。主要取引先だけに、藤原康正社長(50)はがくぜんとした。
追い打ちをかけるように提示された取引価格は昨年より約1割安い。担当者からは「割安な前年産の秋田、新潟産コシヒカリの方が消費者には魅力的に映る」と言われ、築き上げた仁多米ブランドの自信が崩れ落ちた。
「価格が下がってやれんようになったら、農家はやめますよ」。父親の一利会長(80)は言う。
それでなくても高齢を理由に周辺農家から管理委託の依頼が相次ぎ、この10年で作付面積は年平均3ヘクタールずつ増えている。雪の多い中山間地域で野菜への転換は簡単ではなく、米価下落は離農を加速させかねない。
耕作放棄地を増やしたくないと、引き受ける農地を広げても、コメの需要そのものが減少する中で売り先を確保できるか分からない。生産コストの削減や省力化に向けて挑戦している「スマート農業」では、高額な農機を導入する際の補助金の要件にまた、規模拡大がある。
▽厳しい口調
収穫を終えて迎えた衆院選で、各党は在庫の保管費用の補助や政府備蓄米の買い入れ枠拡大、戸別所得補償制度の復活などの対策を打ち出している。
本気度を確かめようと政策に耳を傾ける一利会長は「昔の政治家は車座になって農家の話を聞いてくれたが今はどうか。国民の食と農地をどうやったら守れるのか、政治が見て見ぬふりをしていいわけがない」と厳しい口調で注文した。