秋が深まり、家でゆっくりと本を読むのにいい季節になってきた。読書といえばやはり図書館。本を借りることもできれば、閲覧席でゆったりと読書を楽しむこともできる。山陰両県の図書館は、貸し出しサービスの充実、居心地のよさ、工夫を凝らした展示など、さまざまな角度から楽しむことができる。前編と後編に分け、島根、鳥取両県の主要な図書館とユニークな図書館、6館を紹介する。(Sデジ編集部・宍道香穂)
前編では島根県立図書館(松江市内中原町)、松江市立中央図書館(松江市西津田6丁目)、海辺の多伎図書館(出雲市多伎町小田)を紹介する。
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島根県立図書館(松江市内中原町)
松江城のすぐ近くにあり、設計は日本を代表する建築家の一人、菊竹清訓。歴史的景観と調和する建物は、今でも建築関係者から高く評価されている。
館内の計5カ所に、県とタイアップした月替わりの展示コーナーを設置している。11月はそのうち1カ所で、読書週間(10月27日~11月9日)に合わせた展示「わたしのおすすめ本」を開催。県内の高校生による「おすすめの1冊」を集めて展示している。
▷島根が分かる 資料の宝庫
特徴は何といっても、膨大な蔵書数だ。一般向けに開放している書架とは別に、古い本や郷土資料を保管している閉架書庫を見せてもらった。資料情報課の大野浩郷土資料・調査係長は「1年間に2万冊のペースで本が増えていくため、だんだんと場所の確保が困難になっています」と苦笑い。経典、江戸時代に作られた道中記(旅の案内書)、過去の新聞のほか、各自治体、施設のパンフレットなどもあり、こんなものまで保存されているのかと驚いた。
大野さんは「メジャーとマイナーの両方がそろっているのが特徴です。マイナーな本や資料の需要は限られますが、ゼロではない。こんな情報が欲しいけど、あるだろうか…と迷ったらぜひ、レファレンスサービスを利用してみてください」と話した。昔から今に続く、島根が分かる資料の宝庫だ。
▷県内各地へ本を届ける
島根県立図書館は県内各市町村の図書館へ、本の配達貸し出しをしている。最寄りの図書館に読みたい本がなく、県立図書館にある場合、申請をすれば本を取り寄せて借りることができる。「県立図書館にならありますと言われても、距離が遠くて来られない場合も多いと思うのです。気軽に取り寄せサービスを使ってもらえたら」と大野さん。配達は週3回行っており、取り寄せを申請すると2~3日後には最寄りの図書館に届く。
各図書館と連携を取り、県内各地へ本を届ける。県立図書館として、県民の「これが知りたい」「これが読みたい」に細やかに対応する姿勢に、頼もしさを感じた。
松江市立中央図書館(松江市西津田6丁目)
JR松江駅から南に約1キロ、松江市総合文化センター内にある。館内に入ると右側にカウンターがあり、その奥には松江ゆかりの作家・小泉八雲の作品や関連本を集めたコーナーがある。
松江市総合文化センターの大規模改修工事に伴い、来年4月から約1年半の休館を予定している。
▷読みたい本が見つかる「本屋大賞コーナー」
「読書の秋」にぴったりの展示が「本屋大賞コーナー」。全国の書店員によって選ばれたお薦め本が並ぶ。大賞作品はもちろん、第1回の2004年から今年のノミネート作品も並べている。澤田有美司書は「今年の作品はやはり人気で、常に予約が入っている状態です」と話す。読んだことのない小説を読みたいが、何を読めばいいのか分からない…という人にぴったりのコーナーだ。展示は12月末まで。
また、「芸術の秋」にちなみ、美術関連の本を集めたコーナーを11月末まで設置し、ピカソやムンク、ミレー、岡本太郎といった芸術家の作品解説や作品集約20冊を並べている。美術というと難しくとっつきにくい印象をもちやすいが、鑑賞方法や楽しみ方を知ることで身近に感じられそうだ。
▷「おうち時間」のおともに 司書が選んだ本の詰め合わせ
コロナ禍で増えた「おうち時間」を充実させてほしいと、松江市立図書館では貸出冊数を従来の10冊から15冊に増やし、貸出期間を2週間から3週間に延長している。昨年8月からは「おうち時間応援セット」とし、ジャンルごとに5冊を1セットで貸し出すサービスを始めた。文学、エッセイ、食、暮らしなど、好きなジャンルを選ぶと、関連本5冊がセットになって貸し出される。中央図書館では40セットを用意している。
気になっている本が入っていたり、自分では選ばないような本があったりと、読む本の幅を広げてくれそうなサービスだ。中央図書館以外の市立図書館2館(島根図書館、東出雲図書館)でも同じサービスを利用でき、図書館ごとにジャンルや本のラインナップが異なる。
絵本をセットで借りられるサービス「こそだてえんむすびぶっく」もある。子どもの年齢に合わせて司書が選んだ絵本5冊が1セットになっていて、子どものおうち時間の充実にうってつけだ。
松江市立図書館では、松江市に住民票がない人でも図書カードを作り、本を借りることができる。近隣市町村の人々や観光客も利用できるのは大きな魅力だ。澤田さんは「芸術、食欲、スポーツなど、さまざまなジャンルの本を用意しています。ぜひ図書館に足を運んで、それぞれの“秋”を探してみてください」と話した。
海辺の多伎図書館(出雲市多伎町小田)
▷窓の向こうに広がるオーシャンビュー
7館ある出雲市立図書館の一つ。館名にある通り、海に面していて館内からの眺めの良さは、これが図書館?と思うほど。館内に入ると目の前に大きな窓があり、その向こうに美しい日本海が広がる。
取材当日は天気が良く、真っ青な海と空、白い雲が目に飛び込んできた。窓の外にはテラス席があり、貸し出し手続きを済ませた本を持ち出して読むことができる。心地よい海風と美しい景色の中で読書をする、想像しただけでも最高だ。
館内は白い壁と薄い茶色の木材の内装が印象的で、海の青色と相まって爽やかな雰囲気。モヤモヤとふさいだ気分の時でも、ここでのんびり読書にふければリフレッシュできそうだ。
▷心に彩り与える本を紹介
出雲市立図書館7館は28日まで「読書の秋」にちなんだ展示をしていて、各館が設定したテーマに沿って本を紹介している。
海辺の多伎図書館の展示テーマは「何かが変わる」。児童書や小説、実用書などスタッフが影響を受けた本を中心に、読了後の余韻や心の変化を楽しめる本が並ぶ。富永貴子司書は「本は心に彩りを与えたり、人生を豊かにしたりするものです。気軽に手に取って、本との出会いを楽しんでもらえたら」と話した。
多伎町はフィンランド・カラヨキ市と交流都市になっていて、入り口付近にはフィンランドの絵本やフィンランドにちなんだ本が並ぶ。カラフルで温かみのあるイラストは、眺めているだけで気分が明るくなる。
隣には海にちなんだ本を集めたコーナーもあり、多伎町の特徴が良く表現されている。海に面した立地を生かす居心地の良い図書館に癒やされた。
「山陰図書館巡り」後編では、出雲市立大社図書館、鳥取県立図書館、米子市立図書館を紹介する。













