親や祖父母といった育ての肉親に手を掛けるのは非道の中の非道として、刑法には1995年まで尊属殺人罪の規定があった。自身か配偶者の直系尊属を殺害した場合、死刑か無期懲役に処される規定だ。有期懲役刑のある通常の殺人罪より重い量刑で、事情がどうあれ執行猶予にはならなかった▼規定は刑法のできた1907(明治40)年当時の価値観を反映したものとされ、戦後になると量刑にそぐわない事件が発生し、論争になった。68年に20代女性が父親を殺害した事件では、父親による10年以上もの性的暴行が背景にあり、最高裁判所は73年に規定を憲法14条1項(法の下に平等)に反すると判断し、女性への執行猶予判決が確定した。以降、尊属殺人の適用はなくなった▼殺人罪の量刑は、裁判によって認められた事実を根拠にして裁判所が決める。尊属殺人がタブーの頂点だった時代と比較すると、残念なことに現代は非道が多様化している▼中でも近年目立つのが無差別殺人だ。社会を震撼(しんかん)させる事件が後を絶たない。極刑をもってしても抑止力にはならず、予知や防御のしようがない。外国で起きる爆弾テロに近い▼昨年末の大阪・北新地の放火殺人事件は衝撃だったが、元日にはJR松江駅で高齢女性が刺された。守られるべき高齢者が突然、命の危険にさらされる。社会が人倫に反するタブーへの意識を高めるしかないのではないか。(釜)