オンラインインタビューに応じるマス村のダルマ・ユダ村長(47)
オンラインインタビューに応じるマス村のダルマ・ユダ村長(47)

 カヌーが盛んな島根県美郷町は、カヌー制作をきっかけにインドネシアのバリ島・マス村と20年以上にわたって交流を続けている。美郷町では、鍵盤打楽器や銅鑼(どら)で合奏するインドネシアの伝統音楽「ガムラン」の楽団が結成され、昨年11月、町内で初公演した。マス村のダルマ・ユダ村長(47)や現地の住民は、美郷町民の演奏風景を映した山陰中央新報社の動画を見て、たいへん感激したという。本場の演奏も楽しんでもらおうと、マス村の祭りで披露されたガムランの動画を美郷町へ送った。
 美郷町の楽団による演奏の感想や交流について、村長にオンラインで話を聞いた。(Sデジ編集部・宍道香穂)

バリ島ウブドの姉妹校を訪問する旧邑智高校の生徒たち(2000年10月)

 ユダ村長は高校卒業後、日本語を学び、日本人観光客にバリ島を案内するガイドとして、約10年間活動した経験がある。日本語は堪能で日本の事情にも詳しい。ユダ村長は「皆さんが笑顔で楽しそうに演奏する様子に感動し、涙が出そうでした。一緒に動画を見たメンバーも皆、感動していました」と話した。「心から楽しんで演奏すると音色が美しく響き、幸せなオーラが伝わります。本場の演奏も同じです」。

初公演を行った美郷町ガムラン楽団=2021年11月、島根県美郷町粕渕


 マス村は「芸術の村」と呼ばれ、音楽や舞踊、工芸品、絵画といった芸術作品が盛んに生み出されている。マス村で毎年6~7月に開かれる芸術祭では、何千人もの参加者が演奏や踊りを披露し、「日本の舞踊チームも訪れます」とユダ村長。

 演奏や舞踊は芸術祭だけでなく、冠婚葬祭でも披露される。新型コロナ禍で、人が集まる演奏会は中止が続いていたが、ユダ村長は「明日は村で10組の結婚式があります。もちろんガムランの演奏も披露されます」と話し、芸術を楽しむ機会が徐々に増えてきたことがうかがえる。

マス村の位置

 バリ島には多くのガムラン楽団があり、日本やアメリカ、イタリア、オーストラリアなど世界各地で演奏する有名楽団「スダマニ」のほか、マス村内だけでも約20の楽団がある。打楽器や銅鑼(どら)などさまざまな楽器を使うため、1グループに少なくとも40人が所属するといい、音の重なりによる深みや、合奏ならではの迫力を楽しめそう。

▷新年の祝い方は?
 オンライン取材をしたのは1月の半ば。バリ島では年末年始をどう過ごすのだろうか。村長によると「ヒンドゥー教徒が多いインドネシアでは、ヒンドゥー暦の正月である3月3日が元日です」とのこと。大晦日にあたる3月2日は、演奏や踊りで盛大に年越しを祝う。町には白龍や神々を模した巨大な飾りが登場するといい、ユダ村長は「青森県のねぶた祭のような雰囲気です」と説明した。

 正月の3月3日は「ニョピ」と呼ばれる日で、お祭りムードから一転、厳かに過ごす。この日は誰もが「地球を休ませる」ことを意識し、断食するほか、火をつけたり、外に出かけたりするのも控えるという。にぎやかにお祝いをした翌日は静寂に過ごす。かなりメリハリがついた過ごし方だ。

▷日本人向けガイドとしてバリ島を案内
 ユダ村長はガイドになったきっかけを「勤務していた木彫り店を訪れる日本人たちが優しく、良い人が多いと感じて、日本に興味を持ちました」と振り返る。口コミでガイドとしての人気が高まり、女優の桃井かおりさんや料理研究家の山本麗子さんといった著名人の観光にも同行した。

朗らかにインタビューに応じてくれたユダ村長
島根県美郷町と交わした友好促進のための文書を手にするユダ村長

 ちなみに、プロ野球チーム・北海道日本ハムファイターズの監督に就任した「ビッグボス」こと新庄剛志さんは、現役引退後、バリ島に移住していた。新庄さんを知っているか、ユダ村長に尋ねると「バリ島に住んでいた人ですよね。会ったことはありませんが、海沿いのチャングーという町に家があると聞いた事があります」とのこと。

▷コロナ禍も続く交流
 リゾート地のバリ島は、新型コロナウイルス感染拡大で観光客が激減し、ホテル業や観光業を中心に打撃を受けた。感染が拡大していた2020年、美郷町国際友好協会はマス村への支援のため寄付を募り、100万円以上の支援金を送った。また、コロナ禍でマス村から美郷町への技能実習生受け入れが難航していたことを受け、町が3カ月間の事前研修を支援した。
 寄付や支援に対しユダ村長は「感動しました。私も、マス村の住民たちもうれしく、感謝の気持ちでいっぱいです」と振り返った。遠く離れたバリ島と島根県だが、心のつながりは一層強くなっている。

ユダ村長が美郷町へ贈った、木彫りの「みさ坊」

 彫り物が得意なユダ村長は支援のお礼として、マス村と美郷町の友好関係をイメージしたキャラクター「みさ坊」の木彫りを美郷町に贈呈。ユダ村長はマス村内の渓谷の岩に、村ゆかりの歴史上の人物を描いた彫刻を施していて、「コロナが収束したら美郷町でも掘りたいです。美郷町の歴史や神楽を表現した像を彫るのが夢です」と、美郷町への思いを話した。

自身が制作した石像の前で記念撮影するユダ村長(ユダ村長提供)

▷カフェやフォトスポットもお薦め
 旅行先として日本人に人気の高いバリ島。新型コロナウイルスが収束したら足を運びたいと思っている人も多いのではないか。ユダ村長は「ビーチや山、美しい芸術作品が楽しめるほか、市街地には新しいレストランやコーヒーショップ、写真スポットも次々と登場しています」と、バリ島の魅力を教えてくれた。日本と同じく、インドネシアでもYouTubeやTikTokといったSNSが人気で、撮影に適したおしゃれなカフェや、動画映えするスポットがにぎわいを見せているという。

 海や山といった自然に加え、美しい芸術作品やカフェ、レストラン、写真スポットと、見どころ満載のバリ島。本場でガムランの演奏をぜひ聞いてみたい。優しく暖かいユダ村長と話し、自由に海外旅行ができる状況になったらぜひ、足を運びたいと強く思った。