映画やゲームの中のような、近未来的な内装の「FーRUSH」=松江市寺町
映画やゲームの中のような、近未来的な内装の「FーRUSH」=松江市寺町

 SF映画に出てきそうな奇妙なバーの写真がツイッターにアップされると、「なんだ、この危なそうな飲み屋!」などSNS上で大きな話題になった。調べてみると住所は松江市。銀色の重厚そうな扉の写真だけでも不気味さが漂う。店内はどうなっているのか、訪ねてみた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

SNSで話題になった、不気味さの漂う扉。初見でバーの出入り口だと思う人はいないだろう

 店は松江市寺町のダイニングバー「F-RUSH(エフ・ラッシュ)」。松江の繁華街・伊勢宮の一角にある。ツイッターのつぶやきは1月15日、鳥取県の男性が投稿した。写真の銀色の扉には円形のドアノブ、横には数字を入力する端末がある。入店する際にパスワードの入力を求められるかのようだ。一見、武器庫や危険物保管庫のような物々しさで、とてもバーの入り口には見えない。

F-RUSHの出入り口の扉。不気味さはあるが、端末上部の注意書きには英語で「この先禁煙」とあり、見た目とは裏腹に書いてあることは常識的だ

 映画やゲームから飛び出てきたような近未来的な外見に、つぶやきを見た人からは「何これ宇宙船!?」「ゲームに出てきそうな店だ」「客にサイボーグがいそう」と関心を寄せる声が次々に集まった。投稿はたちまち拡散され「リツイート」が9500件、「いいね」が5万7千件集まった(2月21日時点)。

 

 ▼内装もゲームや映画の世界のよう

 F-RUSHは、2階建て建物の1階にある。繁華街で店を探すと、飲み屋が並ぶ中、明らかに異彩を放つ入り口が目に入ってきた。ツイッターで見た、重厚そうな扉だ。

 扉の縁には危険区域を表す黒と黄色のしま模様があり、すぐ横で監視カメラのような複数の大きなレンズが見据える。扉を開けるには、勇気が必要だ。

 いざ扉を開け、店内に入ると、壁や天井のほぼ全てが銀色のパイプや機械で覆われていた。広さは約50平方メートル。さびたパイプがあちこちを通り、天井からは大量の配線が露出する。カウンター付近には何かを測定する目盛りや、見たことがない謎の機械が並ぶ。

F-RUSHの店内。近未来のバーをイメージしたスチームパンク風の内装だ
天井からは配線が露出する。見掛けだけで電源にはつながっていないので危険性はない

 あまりにも現実離れした光景に、まるでゲームや映画の世界に紛れ込んだかのような錯覚に陥った。

 

 ▼塗装や汚れで雰囲気演出…プロも加わり整備

 店を経営するのは、松江市内で居酒屋など計7店舗を展開するAAO(株)(松江市寺町)。三谷尊文社長(50)が「わくわくするような楽しさがある、面白い店にしたい」と近未来のバーをイメージした。テーマパークのデザインを手掛けたプロのデザイナーの協力を得て準備を進め、2021年5月にオープンした。

内装を考案した三谷尊文社長。写真のように、店内のセットを活用した楽しみ方を教えてくれる気さくな社長だ

 内装はさびたり汚れたりしたように見えるだけで、塗装したもの。壁のさびたパイプは塩化ビニールのパイプを銀色に塗装したり傷を付けたりして使い古したように見せている。冷蔵庫や空調機器も新品のものを塗装して汚れを演出するなど、3カ月掛けて完成させた。手が込んでいるように見える扉や謎の機械には、誰もが知る日用品の数々を使っているという。三谷社長は「何を使ったか、直接見に来て店員から答えを聞いてほしい」と笑った。

さびたように見える内装は全て塗装。プロのデザイナーの腕を借り、細部までこだわった
塗装や照明を生かし、異質な雰囲気を演出する

 三谷社長はツイッターで話題になったことを友人から聞いて知った。新型コロナウイルスの感染拡大により、島根県に適用された「まん延防止等重点措置」の影響で、店は1月27日から休業した。まだ具体的な反響は分からないが、飲食利用だけでなく「コスプレの撮影で使わせてほしい」という問い合わせがあったという。「狙い通り、多くの人に面白いと思われたようでありがたい。SNSを見て来た人にがっかりされないよう、内装は今後も進化させていきたい」と意気込む。

 

 ▼バーの品ぞろえは「真剣」

 内装には「楽しさ」「遊び心」を取り入れるが、取り扱うお酒への姿勢は真面目で真剣だ。日本酒は島根県の地酒を常時50種類から60種類、クラフトビールは16種類をそろえる。

バーカウンターの前には謎の測定器。地酒やクラフトビールを飲みながら、店員と内装に関する話を楽しめる

 良いクラフトビールを飲んでもらうため、提供するのは保存料などを使わないものにこだわる。味が変わらないように常時冷やす必要があり、クラフトビールのみを詰めた冷蔵庫は、扉に穴を空けてタップを取り付け、冷蔵庫から直接ビールを注げるように工夫した。

 三谷社長は「普通の店だったらこんなに管理が大変なビールを扱わない」と笑い「お客さんに良いビールを提供したいし、提供することで良いビールの作り手を応援したい。遊んでいる部分と真剣な部分を併せ持った面白い店です」と胸を張る。

 日本酒はグラス550円、ビールは一杯800円から。食べ物はステーキやピザがあるほか、チーズケーキといったデザート類もあり、お酒も食事も気軽に楽しめる。

 

 島根県内では2月20日に「まん延防止等重点措置」が解除され、店は21日から営業を再開した。感染対策には十分気を付けながら、一風変わった内装と自慢のビールをゆっくり楽しんでみたい。F-RUSHの定休日は毎週月曜、営業時間は午後5時~午前0時(午後11時半ラストオーダー)。