1965(昭和40)年に公開された東映作品『あの雲に歌おう』は、赤松光夫著『高校生の性典』が原作の青春映画。「○○の性典」という言葉は、当時興味本位で語られることも多く、特に「思春期」や「十代」が冠せられると、真面目な性教育なのか、風俗臭に覆われた性の商品化なのか、理解を寄せる開明派と眉をひそめる層に分かれた▼その映画に、75歳で先月亡くなった歌手で俳優の西郷輝彦さんが出演していた。教師も絡んだ高校生らの恋愛問題を描いた作品で、西郷さんは剣道部で活躍する高校生役。身近にこんがらがった恋愛騒動が起きても「僕の恋人は剣道」と爽やかに竹刀を振り下ろしていた▼今から見ると、取って付けたようなぎこちない作りだが、当時の映画やテレビなど大衆娯楽には「青春モノ」と呼ばれるジャンルがあった▼流行歌の世界では、西郷さんと橋幸夫さん、舟木一夫さんの「ご三家」を含む青春歌謡の全盛期。歌詞は「いつでも君だけを」と率直明快で和声進行も今の曲のような複雑さはない。高齢者にとってはシンプルなメロディーが懐かしく響く▼青春歌謡が流行した60年代は日本経済の高度成長期。歌も青春期なら経済も青春を謳歌(おうか)していた。ご三家のうち、橋さんは来年の誕生日で60年以上の歌手活動を引退する一方、『高校三年生』を歌い続ける舟木さんはまだ若々しい。西郷さん、青春をありがとう。(前)