醸造に使う器具を紹介する石田章さん(44)=出雲市多伎町久村、出雲多伎ブルワリー
醸造に使う器具を紹介する石田章さん(44)=出雲市多伎町久村、出雲多伎ブルワリー

 出雲市多伎町久村に新たなクラフトビール醸造所「出雲多伎ブルワリー」が5月後半、オープンする。クラフトビールは大手メーカーが製造するビールと比べ、小規模な醸造所で個人などが製造し、作り手のこだわりが出やすい。近年、山陰両県にも醸造所のオープンが相次ぎ、人気の広がりを感じる。クラフトビールの魅力や醸造所を開く経緯を店主に聞いた。(Sデジ編集部・宍道香穂)
 
 多伎ブルワリーは「多伎いちじく温泉」のほど近くにあり、店主の石田章さん(44)が、5月下旬をめどに開く。ビールを作る醸造所のほか、商品の飲み比べができる試飲スペースを設置する。

 販売するのは多伎町産のヤマモモを使用した「ヤマモモビール」、コク深い「黒ビール」、香り高い「アメリカンペールエール」、苦みが特徴の「IPA」の全4種類。いずれも330ミリリットルの瓶入りで、600円。ビールは醸造所で購入できるほか、オンラインショップでも注文を受け付ける。道の駅「キララ多伎」や出雲市内の飲食店でも取り扱う。秋には限定商品として、多伎町の特産品・イチジクを使用したビールの製造、販売も予定している。

醸造所の外観=出雲市多伎町久村、出雲多伎ブルワリー

▷コクのあるビール造りたい
 石田さんは益田市出身。若い頃からクラフトビールが好きで、広島県や山口県、福岡県、関東地方など、各地に足を運び、その土地ならではのクラフトビールを楽しんだという。インターネットなどで醸造について知るうちに「自分のブランドでクラフトビールを発信したい」との気持ちが芽生えた。

 石田さんは2021年1月から1年間、地ビール製造の石見麦酒(江津市桜江町長谷)に通い、醸造工程を学んだ。18年間勤務した会社を2月に退職し、醸造所のオープンに向け準備を始めた。
 石田さんは9年前に出雲市内へ転勤となって以来、出雲市に拠点を置いている。勤めていた会社では営業を担当し、「培ったつながりは宝物」と話す。仕事で知り合った人たちは石田さんが醸造所を開くと知ると「応援しているよ」「飲みに行くね」と温かい言葉をかけてくれるという。

「出雲多伎ブルワリー」店主の石田章さん(44)

 石田さんは「コクや深みがあるビールが好き」で、自身が作るビールもコクが豊かなものになるよう麦芽の種類や水の量、温度を調整しながら理想の味を引き出している。石田さんは「すっきりと飲めるビールも良いが、コクのあるビールはゆったりと味わうことができる。暑い夏だけでなく、一年を通してビールを楽しんでもらいたいので、コクを出すことにこだわっている」とビール造りへのこだわりを説明した。確かに、キンキンに冷えたビールを飲み干するのも気持ちいいが、コクや香りをゆったりと味わうのも、すてきな楽しみ方だ。ビールと一口に言っても、味わいによって全く違う楽しみ方ができるのだと感じた。

 ビールを醸造する上で最も注意を払っているのは、雑菌が入らないようにすること。ビールにとって雑菌は大敵という。醸造過程で雑菌が混ざると、香りの悪化や余分な酸味の増加につながる。使う器具は常に清潔に保ち、煮沸したビールを冷ます時や、発酵器に移す時は特に注意が必要という。

煮沸したビールを冷ます器具。ビールが入った管の周りを水が流れ、冷却する仕組み。

▷ビール通し多伎町の魅力発信
 石田さんは知人から「昔、多伎町はヤマモモが有名だった」と聞いたことをきっかけに、ヤマモモを使用したクラフトビール製造を考えるようになった。「ヤマモモを使えば、ビールに優しい味わいが出るのではと思った」と話す。
 ヤマモモペーストを使ったおつまみの提案やビールに入れて飲むアレンジも考えているという。甘いペーストをビールに入れて飲むアイデアには驚いたが、なるほど、カクテルのようになっておいしそうだ。風味豊かなクラフトビールならではの楽しみ方だと思う。

 醸造所を多伎町で開く理由の一つとして石田さんは「多伎の夕日が好き」と話した。「美しい日本海が広がる浜辺で、夕日をボーっと眺めながらビールを飲めたら最高だと思った」と言い、名産品のPRにとどまらず、多伎の風景のすばらしさも知ってもらいと意気込む。

「アメリカンペールエール」のラベルデザイン。海辺の夕日や風車といった、多伎町の美しい風景を表現している。(石田さん提供)

 石田さんは多伎町について「人口の減少や空き家の増加とネガティブな問題もあるが、良いところがたくさんある。ビールを通して地域の活性化に協力できたらうれしい」と、目標を見据える。今後は地域の人と協力してイベントを開くなど、人が集まる仕掛けを作っていきたいという。

 石田さんは「その土地ならではの原料を使っていたり、作り手の思いやこだわりが詰まっていたりと、ひとつひとつにストーリーがあるのがクラフトビールの面白さ」とする。クラフトビールを飲む時は店で話を聞いたり、店のホームページでこだわりを調べたりすると、より深く楽しめそう。

ビール造りで使う煮沸機を紹介する石田さん

 石田さんは「クラフトビールという言葉を聞いたことはあっても、飲んだことがないという人も多い。新しい店ができるとその分、裾野が広がるのではと思う」と話した。これまでクラフトビールを口にしたことがない人に向けて入り口を作り、さまざまなクラフトビールを楽しんでもらいたいという。
 朗らかで物腰柔らかな雰囲気ながら、石田さんからは多伎町を元気にしたいとの熱意も感じた。多伎ブルワリーのビールが多伎町の新しい看板商品となり、町が人々でにぎわう様子を見てみたいと思った。