中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の再稼働に向けた最後のピースが、ついに埋まった。島根県の丸山達也知事が2日の県議会本会議で再稼働への同意を正式に表明した。

 地元自治体は2、3月に原発が立地する松江市を含め、原発30キロ圏内の出雲、安来、雲南各市と、鳥取県、米子、境港両市の首長が再稼働への同意を表明しており、丸山知事を最後に地元同意が完了した。

 昨年9月15日の原子力規制委員会の審査合格から、わずか8カ月半での同意完了は、東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)と同じ。ただし、女川原発の場合は、東日本大震災の大津波で800人以上が犠牲となり、人口減少が続く女川町にとって、経済活性化に原発再稼働が不可欠だったという事情があった。果たして島根原発周辺の自治体に、そこまでの危機感や逼迫(ひっぱく)感があるだろうか。

 島根原発の再稼働を巡っては昨年の審査合格時に、推進派の一部から「できれば来夏までに決着をつけたい」という声が聞こえていた。参院選で再稼働の可否を争点にしたくないというのが理由。その思惑通り、6月22日が想定される参院選の公示を前に決着がついた形だ。

 確かに地元経済界を中心に、電力の安定供給とコスト面から再稼働待望論が高まっていた。

 一方で、東京電力福島第1原発事故を機に増大した原発への不信感もあり、松江市や周辺自治体では再稼働の是非を問う住民投票条例案が直接請求されたものの、全て否決された。

 島根原発は規制委による指摘で防波壁の新たな工事が必要になり、再稼働は全工事が完了する2023年度以降に先延ばしされた。果たして民意を袖にしてまで、拙速な結論にこだわる必要があったのか。参院選を想定した「政治日程ありき」という疑念は拭えない。

 かくして島根原発2号機の再稼働が決まったからこそ、運転する中電と、再稼働を推進する政府に注文を付けておきたい。

 福島第1原発事故から11年が過ぎたが、原発を動かす電力会社への信頼が回復できているとは言い難い。

 東電柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)では、不正侵入を検知する設備の不備や運転員によるIDカードの不正利用などテロ対策のずさんさが発覚。21年4月、事実上の運転禁止命令を受けた。東電に対し検査を行う規制委は今年4月末、柏崎刈羽原発固有の問題と認定したものの、国民は納得しているだろうか。

 島根原発でも5月、偽造した身分証明書を使った構内への立ち入り事案が発生。確認体制の甘さが露見した。

 きょう6月3日は中電の「原子力安全文化の日」。12年前に島根原発で起きた点検不備問題の教訓を風化させないため独自に定めた。その思いを忘れず、襟を正して再稼働に臨まなければ、失われた住民の信頼を回復できまい。

 「脱炭素化」に向けて原発の必要性を唱える政府にも、課題が山積する。ロシアによるウクライナ侵攻で新たにクローズアップされた、原発への武力攻撃にどう対応するのか。原発から排出される高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場問題も滞ったままで、国民の安心は確保されていない。

 信頼と安心という大切なピースが欠けたままでは、胸を張って再稼働できないはずだ。