ブラジル出身者に向け、ポルトガル語版新聞づくりに挑戦。ブラジルから野球留学し、甲子園を目指す2選手を紹介した記事を翻訳した。
ブラジル出身者に向け、ポルトガル語版新聞づくりに挑戦。ブラジルから野球留学し、甲子園を目指す2選手を紹介した記事を翻訳した。

 島根県には約9千人の外国人が暮らし、とりわけ出雲市には約3700人のブラジル出身者がいて、人口の2%を占める。本紙でも在住ブラジル人の活動を取材する機会が増えたが、記事はすべて日本語になってしまう。異国で暮らすブラジル人の皆さんに地域の話題を届けようと、母国語のポルトガル語で新聞づくりに挑戦してみた。(Sデジ編集部・宍道香穂)

 在住ブラジル人にぜひとも伝えたいニュースがあった。本紙の昨年11月16日付の「言葉の壁越え甲子園行くぞ 立正大淞南 日系2選手活躍」。島根県内の野球の強豪校の立正大淞南高(松江市大庭町)にブラジルから留学し、甲子園を目指している現在3年生の清水タデウ健次選手(18)と興梠フェリペケンゾウ選手(17)を紹介した記事。言葉や文化の違いを乗り越えて、日本の球児たちと共に白球を追う姿に胸が熱くなった。島根で頑張る少年たちの姿を伝えることで、在住ブラジル人コミュニティーに明るい共通の話題が生まれ、地域への愛着を持ってもらえるのではないかと考えた。

 向かったのは、出雲市で開かれているブラジル人向けの日本語教室。そこで出会った一人の男性に企画の趣旨を説明すると、笑顔で翻訳の手伝いを快諾してくれた。男性は出雲市在住7年目の会社員・末原カルロスケンジさん(58)。末原さんによると、インターネットの翻訳機能で日本語を入力するとある程度は翻訳できるという。ただ、細かい表現までは対応できないらしい。早速教えられたサイトに日本語の記事を入力してみた。すぐにポルトガル語に変換され「それっぽく」はなったが、正しいのか、間違っているのか、さっぱりわからない。翻訳はサイトに頼るとしても、ポルトガル語の基礎くらい知らなければ恥ずかしい。末原さんに教えてもらった。

ポルトガル語新聞づくりに協力してくれた末原カルロスケンジさん

 まずはあいさつ。「おはよう」は「Bom dia(ボン ジーア)」、「こんにちは」は「Boa tarde(ボア タールジ)」、「こんばんは」は「Boa noite(ボア ノーイチ)」。「ありがとう」は「Obrigado(オブリガード)」。

 自己紹介で使えるフレーズも教えてもらった。「私は~です」は「Eu sou(エウ ソウ)~」。出身地を紹介する時は「Eu sou de(エウ ソウ ド)~」が使える。例えば「Eu sou de Izumo(エウ ソウ ド イズモ)」と言うと「私は出雲出身です」と伝わる。

 ポルトガル語はつづりや文法が難しく、発音も耳慣れないため難しいイメージを持っていたが、簡単なフレーズを教えてもらい実際に話してみると、より身近に感じられた。

 末原さんによると、母国や日本のニュースをFacebook(フェイスブック)やYouTube(ユーチューブ)といった会員制交流サイト(SNS)で確認しているが、住んでいる地域の情報は不足しているという。「特にイベントの情報などが知りたい」と話した。イベントの開催情報や新店オープンの情報など生活に根差した話題は本紙で取り上げ、よく読まれているが、在住外国人には伝わっていなかった。地域に住む人にとって知りたい事柄や有益な情報を発信するのは地方紙の役割。在住外国人が増える中、今後の情報の発信の在り方について考えさせられた。

 記事は、末原さんとしまね国際センター(松江市東津田町)の協力で、約3週間をかけて完成した。見出しは、treinam(練習)やsonhos (夢)といった単語を使い「Brasileiros que treinam arduamente,para tornar os seus sonhos uma realidade(夢を追う少年たち)」と決めた。完成した新聞はA4版、片側1ページ。見出しと写真を配置すると、外国語新聞のような雰囲気が出た。
 清水選手と興梠選手にも動画のメッセージをもらい、記事内の二次元コードを読み取ると2人の声も聞けるようにした。ぜひ、多くのブラジル人に記事が届き、地域発のニュースで盛り上がってもらえると嬉しい。

▷完成したポルトガル語版新聞

 ▲ 紙面をクリックするとPDFが開きます

▷日本語訳
 日系ブラジル人の高校生2人が、松江市にある野球の名門校で主力として活躍している。2人の夢は、日本の多くの少年が憧れる高校野球の全国大会「甲子園」への出場。高校3年生で迎える今年の夏は最後のチャンス、全力をつくし、夢をかなえる。

 野球は、日本で最も人気のあるスポーツ。その中で高校野球はプロ野球よりも歴史が古く、全国大会は全試合がテレビ中継されるほどだ。全国大会が行われる野球場・甲子園は、野球少年たちにとって聖地と言われている。

 2人の名前は、清水(しみず)タデウ健次(けんじ)さん(18)=サルバドール出身=と、興梠(こうろぎ)フェリペケンゾウさん(17)=サンパウロ出身。ブラジルの少年野球チームでプレーし、清水さんが2020年、興梠(こうろぎ)さんが2021年に来日し、野球の強豪校・立正大淞南高校に入学した。

 2人とも、言語の違いや厳しい練習を乗り越え、100人を超す部員の中でレギュラーとなり、清水選手は攻撃、興梠選手は守備の要として活躍している。太田充(おおた みつる)監督は「文化の違いがある中、キープレーヤーになるほど成長した。異なる価値観や感覚を受け入れる姿勢は日本人も見習うべき」と2人をたたえる。

 5月に出場した春の高校野球島根県大会の決勝で、清水選手は、貴重な得点を決めてチームの優勝に貢献した。
 甲子園に出場するには、7月に行われる島根県大会で優勝しなければならない。立正大淞南高校は優勝候補の筆頭だ。2人は「自分だけではなく、チーム全体で強くなるために、部員としっかりコミュニケーションを取り、大会に向けて準備したい」と意気込んだ。

▷清水選手、興梠選手のメッセージ