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囲碁で一時代を築いた趙治勲九段が著書で「スポーツは守備重視でもどこかで攻めないと勝てないが、囲碁は守ってばかりでも勝てる」と書いていた。これを読み、浜田高校の野球の試合を思い出した。和田毅投手(ソフトバンク)を擁した1998年夏の甲子園の帝京戦。優勝候補に3-2で競り勝って8強入りを決めた▼3得点のうち2点は、相手のけん制悪送球に失策が絡んで挙げた。決勝の1点は押し出し死球。「浜田は守っただけで何もしていない」。現地で取材していて困った。展開が地味で記事にする要素が見当たらなかった▼その浜田高が18年ぶりに夏の甲子園出場を決め、きょう初戦を迎える。浜田市の日本海信用金庫本店で現在開催中の記念展でもらったビラに、あの試合の謎が少し明かされている▼帝京の主戦右腕の直球はシュート気味で、右打者は打席にかぶさるようにして立って外角球を狙ったとある。これが決勝点の死球を誘ったという。その前の2得点の伏線は〝足攻〟。試合開始早々に三盗を決めたことで、帝京は機動力に意識過剰となり、ミスの一因となった。全ての得点が頭脳戦、心理戦の成果だったのだ▼現代の甲子園は打力がすさまじい。だからこそ、堅守と少ない得点で接戦を制する、変わることのない浜田の伝統に興味を抱く。甲子園が遠のいた間に激変した現代高校野球の中でも、滋味豊かに戦ってほしい。(板)