平成の大合併で「市」と合併した旧町村の活力を表す指標の一つが、地域にある美術館や資料館だ▼合併から15年以上たち、地域振興を担ってきた支所が体制縮小の傾向にある中、地域のよって立つところを示す場としての役割の高まりを感じる▼旧三隅町の石正美術館や、旧桜江町の今井美術館など元々が島根を代表する施設だけでなく、合併後も輝きを放っている場所がある。芸術の秋にはそうした美術館や資料館を巡るのが楽しみだ。山あいや海辺にある場所柄、周辺の自然観賞や食との組み合わせにも適している▼安来市の中心部から20キロほど山手に入った旧広瀬町布部にある安来市加納美術館もその一つだ。周知の通り、従軍画家として日中戦争を経験し、戦後は、戦犯とされた旧日本軍兵士の釈放助命嘆願書をフィリピン大統領に送るなど、平和活動に尽力した布部出身の加納莞(かん)蕾(らい)(1904~77年)ゆかりの美術館。同館で開催中の写真家・土門拳(09~90年)を紹介する企画展を見た▼戦争からの復興などをテーマにした写真のほか、人物に迫る執念を感じずにはいられない「風貌」の作品群を間近に見ることができたのは、望外の幸せだった。パンフレットによると、企画展は他地域の市町村立美術館と協力し、共同で作品を巡回させる仕組みだった。地域に合った芸術作品を見せる工夫こそが、活力の源だと思う。企画展は24日まで。(万)