政府が購入を検討している巡航ミサイル「トマホーク」=2011年3月(米海軍提供・ゲッティ=共同)
政府が購入を検討している巡航ミサイル「トマホーク」=2011年3月(米海軍提供・ゲッティ=共同)

 プロイセンの軍人クラウゼビッツ(1780~1831年)の著作『戦争論』によると「戦争は防御から始まる」という。攻撃は侵略などが目的だが、防御は戦い自体を目的にしているからだ。歴史探偵を名乗った作家の故半藤一利さんは、これを「戦争になるかならないか、決め手を握っているのは攻撃を受ける側かもしれない」と解説していた▼例を挙げれば先日、ポーランドに落ちたロシア製ミサイルへの対応。仮にポーランドや北大西洋条約機構(NATO)がロシア領に向けて反撃に出ていたら、どうなったか。一時、戦火の拡大が懸念されたのはこのためだ▼防衛力強化の一環として政府は反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に踏み切るようだ。長射程のミサイルを購入したり、開発したりする計画とか。「やられたら、やり返す」とけん制することで抑止力が高まるとの発想だ▼ただ、それで本当に国民の安全性が増すかどうかという論議はまだ十分とは言えない。北朝鮮だけでなく中国やロシアまで届くミサイルを配備すれば相手も意識せざるを得ない。当然、軍備を強化するだろうし、日本の配備先は確実に標的になる▼それだけではない。「座して死を待つのか」という勇ましい理屈は分からなくはないが、反撃能力を持つことは、日本の政治家が本格的な戦争の引き金を引くリスクも背負うことになる。その点も忘れてはいけない。(己)