衆院選で大幅に議席を増やし、笑顔で握手する自民党の安倍晋三総裁(左)と石破茂幹事長(ともに当時)=2012年12月16日夜、東京・永田町の党本部
衆院選で大幅に議席を増やし、笑顔で握手する自民党の安倍晋三総裁(左)と石破茂幹事長(ともに当時)=2012年12月16日夜、東京・永田町の党本部

 十年一昔という。世の中は移り変わりが激しく、10年もたつと、もう昔のことになってしまうという意味の四字熟語である。それでは10年前のきょう、一体何があったのか▼第46回衆院選が投開票され、自民、公明両党が圧勝し、3年3カ月ぶりに民主党から政権を奪還。その10日後、自民の安倍晋三総裁は5年ぶりに首相に返り咲き、憲政史上最長の7年8カ月にわたる長期政権の礎を築いた▼それから丸10年を前にした今年7月、安倍氏は参院選の街頭演説中、凶弾に倒れて亡くなった。振り返れば、政権奪還を果たした安倍氏の笑顔は懐かしい記憶だが、この人たちには、そうは思えないかもしれない。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への高額献金などに苦しむ信者や元信者の家族たちである▼安倍氏銃撃事件をきっかけに、旧統一教会を巡る問題が明るみに出て5カ月。異例の土曜日審議を経て、悪質な寄付勧誘規制を柱とした被害者救済法が10日の参院本会議で可決、成立した。それでも被害者からは「これで終わらないで」「一人でも多く救ってほしい」といった要望が上がる。被害者救済は緒に就いたばかりだ▼一方で、岸田文雄首相は、選挙を通じて教団と自民党をつなぐ要と目された安倍氏の役割を解明する気はないようだ。「一昔」で済まない苦しみを味わってきた被害者の思いを考えると、昔のことと葬り去ることはできない。(健)