11日に行われた師走恒例の松江城すす払い。大掃除の時期が近づいた=松江市殿町
11日に行われた師走恒例の松江城すす払い。大掃除の時期が近づいた=松江市殿町

 わが家は掃除機がない。6年前に旅先で買った、ヤシ科の植物シュロでできたほうきがメインの掃除用具だ。3万円と値が張ったが「某メーカーの掃除機よりも安くて、手入れをすれば何年も使える」との工房主の売り文句が腑(ふ)に落ちた▼手入れは週1回、水で薄めたつばき油を穂先に霧吹きし、たわしですく。バサバサ具合が傷んだ毛髪のように思え、手入れをしながら自然と感謝の念が湧き上がる▼ほうきでの掃除は、掃くという動きに魅力があると思う。古来、ほうきは祭(さい)祀(し)に使われた。5世紀後半とみられる国内最古の遺物が新堂遺跡(奈良県橿原市)から見つかり、記録では『古事記』に下照比売(シタテルヒメ)が夫の葬儀でサギを箒持(ははきもち)としたとの記載がある。いずれもほうきを神のより代とし、掃くという所作を通じて神霊を招いたり、邪を払ったりする力があると信じられていた。『ものと人間の文化史 掃除道具』(小泉和子・渡辺由美子著)に詳しい▼最近まで産育や葬送にまつわる習俗と深く結び付いていたというから面白い。肥後や信州地方には、産婦の足元や枕元にほうきを逆さに立てておく習わしがあった。出棺後、死霊の帰来を防ぐため、掃き掃除をする風習は島根にもあったという▼掃くは「吐く」ともとれ、機械で「吸う」よりも場を浄化する作用がありそうだ。年末の大掃除、どこかもやもやした世相もわが身も、ほうきで払いたい。(衣)