哲人ソクラテスの「無知の知」を気取るわけではないが、自分の知らないことが世になんと多いことか。だからどんなに馬齢を重ねても新たな気付きは成長の証しと、50代を折り返した今も思う▼今春、隠岐から東京へ居を移し、芸能活動を本格化させたモデルの井手上漠さん(18)は、性的少数者LGBTQのうちの「Q」。クエスチョニングといい、好きな人の性が定まらないか、よく分からないという人だ▼肉体は男性だが、幼い頃から女の子の遊びを好み、女性のように髪を伸ばし、化粧をした姿をありのままの自分と感じる。そんな漠さんのフォトエッセー『normal?』がベストセラーになっている。隠岐で撮影した漠さんの生き生きした写真もすごいが、一番うなったのはエッセーに登場する幼なじみの女性だ▼隠岐島前高校で男子と一緒に着替えるのが苦痛だった漠さんを、女子の部屋に招き入れた。女子トイレの使用もOKにした。着替えはクラスの女子全員、トイレは全学年の女子生徒から、数日かけて了承を取り付けた。口には出さない漠さんの悩みを察し、解決のため自ら汗をかき、それを全女子生徒が受け入れた▼わが身を顧みる。性的少数者の存在は知っていた。ただ、近年のLGBTQという言葉でひとからげにして分かった気になり、そこから先は思考停止だった。隠岐の子どもたちに自らの「無知」を気付かされた。(示)