日本の庶民の暮らしに鏡が入ってきたのは江戸時代以降のこと。写真機も普及していなかったそれ以前、自分が普段どのような顔をしているのか、多くの人はあまり気にせず、ふと気にはなっても水面などで確認する程度だったのだろう▼相対した人から「目つきが悪い」「怖い顔だ」と言われても、「怒ったりにらんだりしたつもりはない」「記者は事象を疑ってかかる仕事だから仕方がない」と受け流してきた。しかし、新型コロナウイルスの影響で顔の下半分をマスクで覆うのが日常になると、目が与える印象、果たす役割が大きくなる。表情の大切さを思わざるを得ない▼先日本社が松江市内で運営する「子どもご縁食堂」に参加し、地域の子どもたちと一緒になった。居心地の良い場づくりに貢献しているかを考え、保護者や同僚から見られていると思うと余計に硬くなり、一点を凝視する感じになってしまった▼子ども食堂の支援企業の方々が用意した手鏡にシールを飾る遊びをした。折り畳み式の手鏡をそっと開いて見ると、やはり目だけで人を和ませるのは難しいと感じた▼来月13日からマスク着用の判断が個人に委ねられる。すぐにマスクを外す人はどれほどいるだろうか。ただ少し時間はかかるかもしれないが、子ども食堂にももっと笑い声が響くようになるだろう。迎える方も笑顔で臨めるように、手鏡を見て内面と共に見直そう。(万)