イランは弦楽器の古里らしい。例えばギターもバイオリンも起源をたどると行き着くとか。各地の伝統音楽をアレンジし女性歌手の美声で聴かせるお気に入りのバンド3組、ニヤーズ、ステラマラ、QNTALを紹介しつつ考えてみる。
ニヤーズは米国亡命イラン人らのバンドで、イランやインドの音楽に軸足を置く。イラン生まれ、インド育ちの歌手アザム・アリはペルシャ語とウルドゥー語を使い分け、妖艶な歌声。一番好きな曲「golzar」(2005年)は乾いた音色のアラブの弦楽器ウードのソロが聴きどころ。インドの太鼓タブラが楽しめる「ishq-love and the veil」(08年)もいい。
ウードはイランの弦楽器バルバットが起源で欧州に伝わってリュートとなり、スペインでギターを生んだとされる。フラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアの作品にウードを取り入れた曲があり、昔からよく聴くせいか、懐かしく感じる。
ちなみに南米の弦楽器チャランゴはかつてスペイン人が持ち込んだギターの原型から派生した。弦楽器は大西洋も越えている。
ステラマラは歌手ソーニャ・ドラクリッチのルーツの東欧のほか中東の音楽を奏でる。トルコのスーフィー音楽風の「baraka」(04年)は歌詞はなく「アー」といった声で聴かせ、神秘的だ。ウードから派生した弦楽器ジュンブシュの哀愁漂うメロディーに手拍子が絡み、フラメンコを想起させる。
フラメンコの古里スペイン南部のアンダルシア地方はイスラム圏だった歴史がある。そこにインド系の移動民族が入って文化の交流が起き、フラメンコが生まれたとの説がある。それでイスラム圏の音楽とも雰囲気が似るのかと興味深い。

ドイツのQNTALは電子音のビートに乗せ、リュート、フィドルなど中世ヨーロッパの楽器を奏でる。ロマンチックな曲ぞろいで歌手シグリッド・ハウゼンが中世のドイツ語やフランス語、ラテン語を使い分けて伸びのある美声で歌う。
フィドルはバイオリンと同種の弦楽器。「ecce gratum」(03年)でリュートとともに躍るような演奏がスリリングだ。ボーカルが前面に出た「entre moi」のシングル版(04年)もお勧め。
弦楽器の旅を追うと音色も曲調も変わっていくのが面白い。その地の好みか。(志)