小説すばる新人賞を受賞し、映画化もされた三崎亜記さんのデビュー作『となり町戦争』(2005年)は〝見えない戦争〟を描いている▼となり町との戦争が始まることを、主人公の男性は町の広報誌で知る。次の広報誌に戦死者数を見つけ、開戦に気付く。男性は疑問を持ちながらも偵察員として参戦。命の危険にさらされても実感がわかない。<まるで遠い砂漠の国で起こった戦争で、死者何百人ってニュースで聞いてるみたいだ>▼ロシアのウクライナ侵攻に同様な感覚を抱いた。侵攻初日にニュースサイトを見ると、キーウ市内の固定カメラの映像が流れてきた。一定間隔で警報音が聞こえるだけで戦闘の様子は分からない。その後の報道で攻撃により家を失い、家族と引き裂かれたウクライナ国民の惨状を伝える▼世界には報道で目にしないだけで、戦闘が終わらない地域もある。頭で分かっていても、主人公の言葉のように遠い国の出来事という感覚が拭い去れない▼ロックバンド「ザ・イエロー・モンキー」の『JAM』という曲の中にこんな歌詞がある。<外国で飛行機が堕(お)ちました ニュースキャスターは嬉(うれ)しそうに「乗客に日本人はいませんでした」…>。はっとした。自国に犠牲がなければそれでいいのか。約80年前、沖縄が戦地となり、広島、長崎に原爆が投下されたのはここ日本。戦争が人ごとであってはならないと自戒する。(目)













