2022年10月に初めて開かれた「こどもマーケット」で接客する児童(左端)=出雲市野郷町
2022年10月に初めて開かれた「こどもマーケット」で接客する児童(左端)=出雲市野郷町
2022年10月に初めて開かれた「こどもマーケット」で接客する児童(左端)=出雲市野郷町

 松江市と境を接する出雲市の東端で、小学校の統廃合問題が持ち上がってから、もう10年になる。

 市町村合併で島根県内では最も多い小中学校を抱えることになった市が当時打ち出した再編計画で、旧平田市エリアにあった小学校は、13校から7校に減らす方針が示された。背景に少子化による児童数の減少、市の厳しい財政事情があった。

 このうち3校を一つにする統合の対象となったのが、明治初期の1873年6月に「伊野上小学校」の校名で始まった、長い歴史を持つ伊野小(出雲市野郷町)だった。

▼内外とつながり

 2013年から2年間、在校生の保護者ら、伊野地区の住民でつくる検討委員会が協議。地元の総意として導き出した答えは「統合反対」だった。

 廃校で人口減少が加速し、寂れる地域の将来を考えると同時に、「子どもを井の中のかわずにしたくない」と考え、あるものが生まれた。小さな学校でも大きな魅力をつくり、学校を残して良かったと思えるまちづくりをしようという、住民の覚悟だ。

 以来、自治協会や伊野コミュニティセンターなどが学校と共に動いた。住民たちがプールの掃除など、できることに汗を流しながら、知恵も絞った。

 島根大の学生も加わった自然体験の場「伊野ベーション」や、外国人と交流する「国際ワークキャンプ」を開き、1口5千円の寄付を募り修学旅行などの子育て事業に充てる独自制度を創設。地区内外とのつながりをつくった。

 若い世代のUターンが増える効果もあり、12年度に66人だった全校児童数は、過去最少だった16年度の41人を経て、22年度には70人になった。

▼生徒「恩返し」も

 「いらっしゃいませ」。22年10月、手作りのアクセサリー、おもちゃのほか、新米も並んだ学校近くの古民家で子どもたちの威勢のいい声が響いた。

 地元児童や興味を持った松江市の子どもたちが八つの店を出し、初めて開いた「こどもマーケット」。地区内外から訪れた約300人でにぎわった。

 保護者有志でつくる実行委員会の兼折治加代表(35)は「きっかけがなければ、足を運んでもらえない。来てもらって地区を知ってもらいたい」と話した。

 児童のさまざまな体験が地区外ともつながり交流人口、関係人口を増やす。にぎわい創出というまちづくりの成果は、子どもたちの学びと直結している手応えが、関係者をまた動かす。

 子どもたちの「恩返し」の流れも出てきた。自治協会が開いた、地域の高齢者を対象にしたスマートフォンの使い方教室で、先生役を務めたのが中学生や高校生たち。持ち味を生かして関わりながら、地域を支える人材が育っていく。

 15年3月末に1360人、30・1%だった地区の人口と高齢化率は、23年2月末現在、1195人、38・3%となった。

 人口減少、高齢化が進む中、これからも持続可能な地域づくりの軸に据える子育て。40、50代を中心に約80人でつくるまちづくりの実行組織「伊野やって未来こい!ネット」の多久和祥司事務局長(71)は「人が行き交えば文化が行き交う。つながり、協働することで子育てなら伊野と思ってもらえたらいい」と先を見据える。

 (松本直也)