告示日が迫る海士町議選に候補者が名乗り出ていない崎地区=島根県同町崎
告示日が迫る海士町議選に候補者が名乗り出ていない崎地区=島根県同町崎

 任期満了に伴い18日告示、23日に投開票される島根県海士町議選が、定数10を割り込む可能性が出てきた。現職の半数が引退する中、新人候補出馬の動きがなく、欠員を補う再選挙も現実味を帯びている。町内では、再選挙だけは避けようと候補者擁立を模索する動きがあるが、仕事の都合や有権者への理解といった高いハードルが連なり、調整は難航している模様だ。

 町議選を巡り、山陰中央新報の取材に出馬を表明したのは、現職5人と元職1人の計6人でいずれも男性。このほか、4日までに2人が町選管から選挙資料を持ち帰っている。

 8人全員が出馬しても公職選挙法が再選挙を規定する欠員(定数6分の1以上=2人以上)に達する。この場合、出馬した8人全員が当選した上で、欠員分の2人を決める選挙が開かれることになる。

 関係者によると、現在でも町議選は血縁、地縁がものをいう。親戚の手伝いを得て居住地域や職場関係にお願いをして回り、4月下旬の投開票ながら「こたつが出ている間に選挙は終わる」(ベテラン町議)。告示日までにおおよその得票数を把握し、選挙戦ではわずかな浮動票をすくい取る争いになるという。

 今回はこたつをしまう時期になってもスタートラインに立つ新人候補者はいない。背景には人材不足に加えて周到な「お願い」の負担感、時代の変化も影響。かつて自治会が候補者を擁立する「地区推薦」がなくなり、各種団体も候補者を推す動きが鈍いという。

 同町南端の崎地区(90世帯、141人)では、現職1人が今期限りで引退を予定。地区から町議2人を擁立した時代もあったものの、関係者によると、今回は候補者がいないという。地区に住む橋本剛幸さん(95)は「若かったら、わしが出るのに。町の中心部から遠いので意見が反映されなくなるのが心配だ」と気をもんだ。

 同町は積極的な移住政策が奏功して約400人が定住しているが、Iターン者も町議選には手を出しにくい。本業が町役場関係の人がいるほか「議員の給料だけでは食べていけない」という声がある。町議の報酬は月額17万1千円で、同町が展開する短期就業体験「大人の島留学」の月給より5千円安い。

 一方、関係者によると「再選挙は町の恥だわい」と複数の町民が役場や教員の退職者などに声がけし、引退を表明した現職が態度を変える可能性もあるという。結果「再選挙やむなし」「定員に達する」と、見方は二つに割れている。

 3月定例町議会で引退を表明した波多紀昭町議(82)=4期=は「民主主義の危機だ。情熱を持って頑張りたいという人がなるべきで、担がれた人がなっても議会が沈滞ムードになる」と訴える。波多氏は「ステージを用意し、志のある人材を募ってきたのが海士町だ」とし、町議を町外に公募する制度設計も考えるべきだとした。

 (鎌田剛)