金子みすゞのブロンズ像=山口県長門市
金子みすゞのブロンズ像=山口県長門市

 今年は、日本海に面する山口県長門市仙崎出身の詩人・金子みすゞ(1903~30年)の生誕120年の節目。誕生日だったおとといを含め、地元で記念の催しがあった▼人間、動植物といった生き物を平等な視点で捉え、生命を慈しむ彼女の感性や洞察力は、幼少期から通った浄土真宗の寺院で仏の教えを聞く「聴聞」で培われたという。当方も彼女を知ったのは、20年ほど前に石見の真宗寺院を訪れた際の聴聞だった▼<だって、お花はやさしくて、おてんとさまが呼ぶときに、ぱっとひらいて、ほほえんで、蝶(ちょう)々にあまい蜜をやり、人にゃ匂いをみなくれて、風がおいでとよぶときに、やはりすなおについてゆき、なきがらさえもままごとの、御飯になってくれるから>。みすゞの詩「花のたましい」の一節から命の尊さを考えた▼「命は一つ一つでありながら連なりあっている。そういう眼(め)で生きとし生けるものを見た時、連なりあいにあるものがいとおしくてならない感情が起こってくる」。住職の言葉を心に留めた▼長門や石見に加え、石見と隣り合う広島は信者を「安芸門徒」と呼ぶように真宗の教えが浸透している地域。ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中、広島選出の岸田文雄首相が「敵を召し取れ」としゃもじをウクライナに贈ったのは解せないが、来月の広島サミットでは、みすゞが伝えた命の尊さを世界に発信してほしい。(万)