安保関連3文書を閣議決定し、記者会見する岸田首相=2022年12月16日、首相官邸
安保関連3文書を閣議決定し、記者会見する岸田首相=2022年12月16日、首相官邸

 先輩と後輩を交えて論議になった。「政権与党は王道を歩むべきだ」。正義感の強い先輩は、今の政治手法が納得できないという。いまだにこだわっているのが、昨年12月の安全保障関連3文書の改定。都合の良い有識者を集めて見解を取りまとめ、閣議決定したように映るらしい▼国権の最高機関である国会に諮るよりも先にバイデン米大統領に約束したのも気に入らない口ぶりだ。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など防衛力の大幅増強は「戦後日本の国柄を変えるほどの重大な政策転換。本来なら選挙で民意を問うのが筋だ」「これでは民主主義が形骸化する」と手厳しい▼すると、横で聞いていた現実主義者の後輩が「これも王道。急ぐからだ」と口を挟んだ。彼の説明では、王道には「王様の専用道」を指す訳語から「近道」の意味もあるとのこと。「学問に王道なしというでしょう」「あれだけ数があれば、どの道でも結果は同じ。多数決で負けることはないから」と▼何やら小話のようになったが、圧倒的多数があると政権運営も「王様並み」が可能になるのだろう。それでも先輩は承服しかねる様子で負け惜しみのようにつぶやく。「そんなことを続けていると、横着な民主主義になる」▼結果を急ぐ必要があるなら近道を選ぶ方が合理的だろうが、それを繰り返していると「目的が手段を正当化する」危うい空気がまん延しかねない。(己)