1959年参院選当選無効訴訟を報じた島根新聞(1961年12月23日付)
1959年参院選当選無効訴訟を報じた島根新聞(1961年12月23日付)

 先日、選挙での「1票の重さ」を感じさせる資料を識者からいただいた▼半世紀以上も前の話。1959年6月の参院選鳥取選挙区で当時の社会党所属だった中田吉雄さん(1906~85年)が3選を果たした。次点だった自民党の宮崎正雄さん(1907~94年)との票差はわずか39票。双方の名前が入り交じった「中田正雄」など、多数出た疑問票の見解を巡って訴訟となった▼一審の広島高裁松江支部は当選無効を言い渡し、中田さん側が上告した最高裁は原判決を破棄して、審議を差し戻した。最終的には中田さんの当選が確定。僅差に泣いた宮崎さんも、65年の次期選挙に当選して2期12年務めた▼疑問票の扱いによっては逆転の可能性が出てくる接戦だったからこそ取り沙汰されたのではあるが、投票時に文字が正しく書かれなかったとしても、善意であることを前提に、民意を読み取ろうとした関係者の努力の跡がうかがえる。それだけ、1票の価値は尊い▼4月の鳥取県議選では、知事選に出馬した平井伸治知事と同姓同名の候補者が当選した。告示中、選挙公報に「他の人に投票して」との訴えを掲載したことが話題になり、選挙後には県庁に「(知事選と)間違って投票した」と、取り消しを求める声もあったという。だが、当選したからには積み上げられた1票ずつの意味をかみしめ、有権者との対話を大切にしてほしいと願う。(万)