十両優勝決定戦で豪ノ山(左)の攻めを懸命にしのぐ落合=28日、両国国技館
十両優勝決定戦で豪ノ山(左)の攻めを懸命にしのぐ落合=28日、両国国技館

 本格的に相撲を始めたのは小学4年生。地元の大会で優勝したのがきっかけだった。「哲ちゃんなら日本一になれる」。友達の激励にその気になった▼だが、鼻っ柱はすぐにへし折られた。同い年の日本一の児童が対戦相手を吹き飛ばす様子を見て恐怖で動けず、相撲をやめたいと思った。「日本一なんて、そんなに強くなかったよ」。友達にそう虚勢を張ったが、父親には見破られていた。「哲也、日本一にならないとお前はうそつきになってしまうぞ」▼この少年こそ、当時倉吉市立成徳小4年だった落合哲也君。「令和の怪物」の異名で大相撲界を席巻する19歳の落合だ。自らのうそが大きな重圧になったが、父親の忠告を胸に稽古を重ね、中学、高校、実業団で日本一を獲得。プロの世界へ飛び込んだ▼初土俵から3場所目の夏場所は、西十両8枚目で14勝1敗。優勝決定戦で敗れたとはいえ来場所での新入幕を決定づけた。本名に代わるしこ名も、郷土の旧名・伯耆国にちなんだ「伯(はく)桜(おう)鵬(ほう)」と発表された▼冒頭のエピソードは、鳥取西中3年だった4年前、中学最後の大会で初めて日本一に輝いたのを記念し、地元の公民館だよりに寄せたメッセージの一部だ。その末尾にこう記している。「相撲の道はまだまだ厳しいと思うけれど、倉吉市出身の大先輩である(第53代横綱)琴桜関を目指して、本当の闘いに挑戦します」。相撲の道はまだ長い。(健)