「天災は忘れた頃にやってくる」という。夏目漱石の弟子として知られる物理学者、寺田寅彦(1878~1935年)の言葉。自然災害はその被害を忘れた際に再び起こるものだという戒めである▼とはいえ最近は「忘れる間もなくやってくる」と言い換えた方がよさそうだ。5月5日に石川県珠洲市で震度6強を観測して以降、国内では地震が多発。震度4以上の揺れは一昨日までに14回を数えた。テレビで鳴り響く緊急地震速報の不気味な通知音を一昨日も聞いた▼そしてきのうの朝は、テレビ画面が突然、不気味な黒い映像に切り替わった。北朝鮮からのミサイル発射と、沖縄県を対象に建物の中や地下への避難を呼びかける全国瞬時警報システム(Jアラート)の画面。こちらは「天災」ではなく、紛れもない「人災」である▼北朝鮮は31日午前0時から6月11日午前0時までの間に打ち上げる、と予告していた。「やってくる」であろうことは事前に予測できたが、だからといって、とても容認できるはずはない▼文筆家でもあった寺田は、随筆にこう書いていた。「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」。確かに「正しく恐れる」のは難しい。必要以上に恐れることはないが、軽んじるわけにもいかない。天災と同様、事前の備えと冷静な判断が求められるのだろう。(健)