島根半島の沿岸からよく海を眺める。行き来するのは意外にも貨物船が多い。決まった時間に同じ方角へ向かう船は、定期航路なのか。大型コンテナ船も見える。スマートフォンに便利なアプリがあり、船籍や船名、航跡といった情報が地図上で一目瞭然になる。旅客船や一定以上の船には、船舶自動識別装置(AIS)の搭載が国際条約で義務付けられている。アプリはAISの信号を利用したものだ▼驚くのは時々、北朝鮮籍の船舶が隠岐諸島周辺や浜田沖といった島根県の陸地側に近い海域を航行することだ。貨物船には無害通航権があり、航行自体に問題はないのだが▼北朝鮮・清津(チョンジン)を出た5千トン級の貨物船が先月21日、隠岐の島町の北北西約45キロの海域で救難を求め、翌日に沈没する事故が発生した。21人の乗組員は北朝鮮籍のタンカーに救助された。鉄を積んで同国西岸の松林(ソンリム)に向かっていたという▼海の専門家によると、北朝鮮の貨物船は、韓国の領海や経済水域を避ける傾向があるという。韓国による拿捕(だほ)や脱北を避ける思惑がありそうだ。その結果、竹島の東を回って南下し、島根沖をかすめて玄界灘へと向かう▼北朝鮮への国連制裁で沈没船は米国の監視リストに載り、救助したタンカーは洋上での不正取引「瀬取り」に関与した疑いが判明している。船の整備状況も推して知るべしだ。隠岐諸島や本土沿岸の備えを強化するしかない。(釜)