イラストを描き、瀬戸内海の魚料理をPRするさかなクン東=4月、東京都内
イラストを描き、瀬戸内海の魚料理をPRするさかなクン東=4月、東京都内

 「魚が好きで、絵が好きで、それでいいんです。みんなが勉強ができて同じように育ったらロボットみたいじゃないですか」。魚類学者でタレントのさかなクンの母親の言葉だ▼授業に集中しないさかなクンを見かねた学校の先生が注意すると、そう返したという。小学2年の時、タコに夢中になり、魚全般に興味が広がった。母親は毎週末に水族館へ、長期休みには海の近くの親戚宅へ連れて行き、決して押し付けず、優しく温かくわが子の興味を伸ばした。その後のさかなクンの活躍は周知の通り。母親は10年前、「自由に泳がせたら本当にお魚になったね」と言い、息子の成長を喜んだという▼簡単なことではないだろうが、さかなクンほどの興味の対象がある子もない子も、親でなくとも誰かが「それでいいんです」と声をかけてやれば、生きづらさを感じる子どもは減るのではないか▼2022年に自ら命を絶った小中高校の児童・生徒は512人で、過去最多だった。厚生労働省のまとめによると、理由(複数回答を含む)は「学業不振」が104人で最も多かった▼本当の理由は分からない。子どもたちが厭世(えんせい)観を抱いたことだけは確かで、その事実を受け止め、自らに問いかける。大人がみんなと同じでないといけないという観念を植え込まれたロボットになっていないか、ロボットじゃないと生きていられない社会をつくっていないかと。(衣)