20年余りさかのぼれる新聞社の記事データベースに「里見香奈」と入力し、検索してみる。出てきた1100件以上の最初の頃に、20年前の2001年6月の地域面に載った「あの人この人」という小さな記事があった▼将棋の全国大会「女流アマ名人戦」有段者の部Aクラスで優勝した小学4年の里見さんを紹介。自宅らしき部屋で将棋盤を前に、あどけない笑みを浮かべる。得意戦法は中飛車で「行け行け、という攻め方が好き」。女流棋士に指導を受けた時に約束した「毎日、詰め将棋を10問解く」ことを、どんなに眠くても続けているとあった▼10年前の11年5月には1面に、プロ棋士養成機関「奨励会」への編入試験合格の記事が載った。当時女流3タイトルを持ちながら女流プロとして初めて、男女を問わない「棋士」を目指して踏み出した大きな一歩だった▼おととい、史上最多となる44期の女流通算タイトル数を獲得し、また新たな歴史をつくった里見香奈女流四冠。「好きな道なら楽しく歩け」を信条に、浮き沈みはあっても将棋に打ち込み続ける姿勢は、指さない者にも大きな学びになる。ライバルで師弟のようでもある清水市代女流七段(52)と互いに尊敬し合う関係には心を動かされる▼「人間性の部分で成長したい」と語る里見さんも29歳。若手の強敵が台頭する女流棋界で10年後、20年後にどんな物語を見せてくれるだろうか。(輔)