大作「海」が掲げられた「小泉清その生涯とコレクション展」の会場=松江市奥谷町
大作「海」が掲げられた「小泉清その生涯とコレクション展」の会場=松江市奥谷町

 その画家の通夜、一人の女性が自宅会場のピアノの前にすっと座り、しばらく弾いて故人を送ったという。画家は小泉八雲の三男の清(1899~1962年)、女性は俳優の村松英子さん(85)だ。両者の間にこそ響く鎮魂の調べではなかったか▼清は「血が複雑すぎたのだろう」と記した遺書を残して自ら逝った。西洋と東洋の二つの血のはざまで苦しみ、八雲の息子という世間の貼るレッテルとも闘い、「絵を描くということは死闘である」と話した▼題材は裸婦や風景。キャンバスに絵の具チューブを直接重ねる技法で、画肌が「熱した岩のよう」と表されるほど力強い。圧迫感がないのは、写実的ではなく、心が感じた色を表現した鮮やかな色使いが、見る者の心に迫るからだろう▼最大の理解者が妻のシズだった。ビリヤード場を経営しながら画壇デビューが46歳と遅かった夫を支え、1男1女を育てた。清が世を去ったのは、愛妻が急逝した2カ月後。ただ孤独ではなかったという。仲間が多く、祖父が八雲の教え子だった村松さんもその一人だ▼松江市奥谷町の小泉八雲記念館で、清の収集展が始まった。村松さんからの寄贈2点を含む18作品と、生涯に迫る手紙や画材も並ぶ。孫の達矢さんは「生きざまにもスポットを当てられたことがうれしい」。展示の一つ一つに触れて、自分と闘うことの尊さに何度も心を打たれた。来年6月9日まで。(衣)