イスラエル訪問から米国に戻る機内で、記者団の取材に応じるバイデン大統領=18日(AP=共同)
イスラエル訪問から米国に戻る機内で、記者団の取材に応じるバイデン大統領=18日(AP=共同)

 パレスチナ自治区ガザ情勢を巡り、国連安全保障理事会は、イスラエル軍とイスラム組織ハマスによる大規模戦闘の一時停止を求める決議案を否決した。

 常任理事国の米国が拒否権を行使した結果だ。米国はガザの住民保護よりイスラエル擁護を優先したに等しい。

 米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は、イスラエルを訪問したバイデン米大統領らによる外交の成果を待つべきだとした上で「イスラエルの自衛権に言及していない」と拒否理由を説明した。この主張には二つ欠点がある。まずイスラエル軍に完全包囲され、水や食料、電気が枯渇しつつあるガザの住民には待つ時間がない。子どもを含む多くの負傷者が、物資不足で命を縮めている。

 また、ハマスの残虐なテロによってイスラエル国内に充満した怒りを考慮すれば、自衛権を強く支持することは、過剰報復を誘発しかねない。急務の人質救出作戦と自衛権行使とは別問題のはずだ。

 バイデン氏は今訪問で、ガザ境界にあるラファ検問所の支援物資通過について、隣国のエジプトとイスラエル双方から合意を取り付けた。

 だが、当面はトラック20~30台分に過ぎないとみられ、200万人を超えるガザ住民には不十分だ。イスラエルの大規模攻撃で交通インフラは寸断されており、物資配給には相当な困難が伴う。

 過剰報復の可能性についてバイデン氏はイスラエルでの演説で、2001年9月の米中枢同時テロ後、アフガニスタンやイラクに軍事介入した米国の対応を教訓に「怒りを感じても度を失っては駄目だ」と述べたが、ガザへの地上侵攻準備を進めるイスラエルに対する自制要求としては弱い。

 さらに帰国後の演説では、既にハマスなどに対し圧倒的優位に立つイスラエルへの巨額軍事支援の必要性を強調しており、事態沈静化への決意は感じられない。

 中途半端な態度の背景には、自身が再選を目指す24年11月の大統領選挙への悪影響を避ける思惑がある。資金提供や世論形成に力を持つ米国のユダヤ系ロビーや、イスラエルを支持するキリスト教福音派を意識すれば、イスラエル擁護を選択せざるを得ないのだろう。

 しかし、バイデン外交の神髄は民主主義と人権の重視ではなかったのか。

 面積約365平方キロの細長い土地に200万人超が押し込められているガザは、民家やビルが密集、通行人同士がすれ違うのも難しいほどの路地も少なくない。「天井のない監獄」との異名は、誇張ではない。

 そのガザで住民に北部から南部への避難を求めるイスラエルの通告は不合理だ。今回の安保理決議案は「ハマスの凶悪なテロ攻撃」を非難すると同時に、避難通告の撤回を訴えていた。米国大使は、これを挙手一つで葬り去った。

 バイデン氏はイスラエル訪問直前に起きたガザの病院爆発で、アラブ側首脳らとの会談延期に追い込まれた。真相は不明のまま世界中で非難の応酬が過熱している。ここで米国が肩入れするイスラエルが過剰な攻撃に踏み切れば、事態は一層流動化する。そのことをバイデン氏は理解しているはずだ。アラブ側とのバランスにも留意しつつ、人道危機回避を最優先に政策を見直すべきだ。