ロシアによるウクライナ侵攻に続いて起きた中東でのイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突。日ごとに戦闘が激化し、民間人を含む犠牲者が増え続けている。この二つの戦争を、勧善懲悪のおとぎ話『桃太郎』のように捉えていていいのだろうか。
おとぎ話では、鬼が住む鬼ヶ島に出かけて鬼を退治し、郷里に財宝を持ち帰ってくる。桃太郎はヒーローとして、その行為は何もとがめられない。それでも違和感はない。鬼が「悪者」で、桃太郎が「正義の味方」という前提があるからだ。
この話を二つの戦争に重ねてみると、ロシアのプーチン大統領は、欧米から見れば「悪者」。先に攻撃を仕掛けて人質を取ったハマスも「悪者」のレッテルを貼られている。ロシアの「力による現状変更」が許されないのなら、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへのイスラエルの地上侵攻も同様のはずだが、欧米は本気で止めようとしていたのかどうか。
国や民族にはそれぞれの歴史や事情がある。その国同士や、国と民族が争えば、双方が「自衛」や「正義」を主張して相手を悪者にしようとする。しかし「自衛」や「正義」の名の下に何をしても許されるわけではない。
おとぎ話に出てくる鬼の側にも幼い子どもがいるかもしれないし、家族や仲間もいるはず。戦いが長引けば長引くほど、新たな恨みや憎しみの連鎖が生まれることを忘れてはいけない。(己)